シットウェー港で中国牽制するインド
新グレートゲーム・中国南進の海
中国南進の海(2)
ベンガル湾に面したミャンマー西部のラカイン州チャウピューと中国雲南省昆明を結ぶパイプラインは地下に埋められている。ミャンマー北部の落差の大きい昼夜の温度差でパイプラインの劣化を防ぐのと、何より反政府武装少数民族のターゲットにならないようにするためだ。
このためパイプラインそのものを見るには、工事現場に赴くしかない。
その最前線は、ミャンマー第2の都市マンダレー南30キロにあった。マンダレー新空港に近い場所だ。
マンダレー市内の工業団地の一角には、高強度・耐腐蝕性の鋼管が山積みされている。直径約80センチ、長さ約20メートルほどのものが、所狭しと並んでいる。
パイプライン敷設工事に責任を持つ中国石油天然気集団(CNPC)は、マンダレーやシャン州ラッショウなどミャンマーの主要都市に拠点を置き、工事を進めるための資材置き場や集中管理センターを設置済みだ。
パイプラインの破壊は、ミャンマー一国の経済を左右することになりかねないだけでなく、中国の命運をも決定付ける要因となる。いまだ武装した反政府少数民族が存在するミャンマーでパイプラインは、内戦やテロの標的となりやすい。
このため当初、中国側は「パイプラインの300メートル以内を人民解放軍が管理する」との提案をしていた時期があった。だが、屈辱の英国植民地時代を経験した誇り高いミャンマー人が、こうした「租界地」を認めるわけがなかった。中国人民解放軍がミャンマーに駐留する話は、「トロイの木馬」になりかねない危惧から立ち消えていった。
一方、何千億円もの持参金でミャンマープロジェクトを推進している中国の影響力強化に懸念を持っているのがインドだ。
戦後、中国と戦火を交え、その怖さを身をもって体験しているインドとすれば、戦略的にも隣国ミャンマーを引き寄せておく必要があった。そのインドが打った手は、チャウピューの隣町のシットウェーへの進出だ。
当初、インドはバングラデシュを経由しインド東部のコルカタに至るパイプライン建設案をまとめ8年前、関係3カ国の基本合意までこぎつけた経緯がある。
だがその後、バングラデシュの態度が一変し、インドのパイプライン領内通過を拒否する行動に出た。背後で寝業師の中国がバングラデシュに圧力をかけたためとされる。インドはやむなくパイプライン敷設計画を撤回、代わりにインパールなどがあるインド東部とミャンマー西部シットウェーを結ぶ道路と航路、港湾を整備することでミャンマー政府と合意した。
バングラデシュとブータン、ミャンマーに囲まれ袋小路に近かったインド東部が、ベンガル湾への出口を確保することで、物流回廊を担保できる。これまで開発の波から取り残されていたインド東部開発の切り札にするとともに、ミャンマーへの影響力を依然、保持している中国を牽制したい意向だ。
インドはシットウェー港の再整備を、昨年度から本格的に着手している。シットウェーに事務所を設けて学校建設のNGO活動を続けている森昌子BAJミャンマー代表は「シットウェーから北上する道路は劇的によくなったし、港湾建設も着実に進展している」と言う。
とりわけインドにとってミャンマーは、交易拡大を図りたいASEAN(東南アジア諸国連合)進出の玄関口となる国だ。
(池永達夫、写真も)