空母3隻体制でインド洋守る
新グレートゲーム・中国南進の海
中国南進の海(4)
スリランカのラジャパクサ大統領は2005年の政権発足以来、中国への傾斜を強めている。政府が少数派タミル人の武装組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との25年に及ぶ内戦で勝利したのは、最後は中国の軍事支援が効いたからでもあった。
そのラジャパクサ大統領の故郷であるハンバントタでは、南アジアのハブ港湾になれるだけの規模を誇る港湾や、さらに国際空港までチャイナマネーをバックに建設された。コロンボに近いバンダラナイケ国際空港に次ぐスリランカ第2の国際空港となるハンバントタ国際空港がオープンしたのは1カ月前のことだった。
ラジャパクサ大統領が目論んでいるのは、ハンバントタを南アジアの物流ハブにしたいという野心的なものだ。モデルはドバイだ。空港と港湾を整備し、両者をリンクさせて南アジアにおける航空、船舶の物流ハブにしようというものだ。
それを全面的に支援しているのが中国だ。
だが、インドにとってスリランカは「裏庭」に等しい。
そのスリランカに将来、中国の軍事拠点が置かれるようになれば、インドとしてはキューバ事件に等しい安全保障面でのリスクを抱え込むことになりかねない。
インド政府はこうした中国の動きを牽制するため、スリランカで発電所や鉄道、石油貯蔵施設の整備計画に融資を表明。地政学的にも重要なスリランカの取り込みに必死だ。
なお、中国はスリランカやミャンマーだけでなく、インド洋におけるシーレーン沿いの港湾整備をも国を挙げて支援している。パキスタンのグアダル港にバングラデシュのチッタゴン港、ベンガル湾上のココ諸島、それにアフリカ東部沿岸まで手を広げている。
シーレーンに沿ってインド亜大陸の南縁に弧を描くように点在する。いわゆる「真珠の首飾り」戦略の発動だ。
さらに中国はインドの地方政府に食い込み、同国南部のケララ州コーチン港の開発に手を出したこともある。岐阜女子大学南アジア研究センター福永正明客員教授は「さすがにこの時は、デリーの中央政府が安全保障上の理由からストップ命令を発し、契約は破棄された経緯がある」という。
富強国家・中国は、積極的な札束攻勢を伴った戦略的投資を行い影響力増大に余念がない。
一方、インド軍も手を拱いたまま座視しているわけではない。
上海永興島で建造している中国人民解放軍の本格的空母を睨みながら、インドは海軍力増強に動きだしている。
とりわけ独立以来、歴史的な関係が強いロシアからの武器調達のパイプを再び大きくしながら中国牽制に舵を切っている。目玉となるのは旧ソ連時代の1987年に配備された空母アドミラル・ゴルシコフ(約4万5000トン)だ。2004年に9億7400万ドルで基本契約が結ばれた後、インド側が装備の刷新を求め23億ドルで最終妥結している。そのアドミラル・ゴルシコフが今秋、インド海軍に引き渡される。
インドは現在、英国製空母「ヴィラート」(約2万8000トン)を1隻保有している。さらにケララ州で4万トン級の国産空母「ヴィクラント」を建造中で来年にも配備される。結局、これでインド海軍は空母3隻体制でインド洋を守ることになる。
(池永達夫、写真も)