決然と「イスラム国」に対処を-元CIA長官
2016 世界はどう動く-識者に聞く(1)
元米CIA長官 ジェームズ・ウールジー氏(上)
7年間学習しないオバマ外交
オバマ米大統領の戦略で過激派組織「イスラム国」(IS)を打倒できるか。

ジェームズ・ウールジー 米オクラホマ州出身。カーター政権で海軍次官、レーガン政権で米ソ戦略兵器削減交渉代表、ブッシュ(父)政権で欧州通常戦力(CFE)条約交渉担当大使、クリントン政権で中央情報局(CIA)長官を歴任。現在、シンクタンク「民主主義防衛財団」会長を務める。
現在の戦略では無理だろう。大幅な戦略転換が必要だ。オバマ氏はまだISを壊滅するために十分な戦力を投じる計画を立てていない。勝利も敗北もしない、わずかな兵力で時折戦うだけ、そんなスタンスではうまくいくはずがない。
決然とISに対処しなければならない。空爆を強化するとともに、数千人規模の地上部隊を送る必要がある。地上部隊の中心は米軍である必要はない。クルド人やヨルダン人、イラクのイスラム教スンニ派部族が中心になるべきだ。
カギを握るのはスンニ派部族だ。米国はかつて、イラク中西部アンバル州のスンニ派部族と「アンバルの覚醒」を組織し、協力して戦った過去がある。だが、スンニ派部族は今、効果的に動員されていない。このアプローチに戻り、再び協力関係を築く必要がある。
パリやカリフォルニアでテロが起きた。西側諸国はイスラム過激派のテロをどう防ぐべきか。
繰り返しになるが、まずはシリアとイラクに拠点を築いたISを追い詰めることだ。封じ込めるだけでなく、壊滅させなければならない。国外でテロ攻撃を企てるISの存在を無視することはできない。
また、ISの協力者を全て見つけ出す必要がある。我々は彼らを戦場の敵のように扱うべきであって、ただの犯罪者のように扱っている場合ではない。彼らは我々の生活や社会の破壊を目指す組織的な政治武装勢力だ。我々も相応の対応をしなければならない。
ソーシャルメディアを通じ、過激思想が世界中に拡散している。
文明のコミュニケーション手段が変わる時、多くの変化がもたらされるものだ。16世紀初め、ドイツのルターが「95カ条の論題」を発表した時、既にグーテンベルクによって活版印刷が発明されていた。95カ条の論題は欧州全域に広がり、プロテスタントの宗教改革につながった。宗教をめぐる戦争により、欧州で数十万、数百万の死者を出したが、活版印刷が発明されていなければ、起きなかったかもしれない。
ソーシャルメディアについても、同じことが当てはまる。情報技術革命が過激思想の急速な拡散をもたらしている。これにどう対処すべきか、答えを見つけるのは極めて難しい。
オバマ氏の下で米国の影響力は著しく低下した。過去7年間のオバマ外交をどう評価する。
カーター元大統領は弱腰の大統領だったと言われるが、政権最後の年には学習し、国防費の増額や同盟国との関係強化、アフガニスタンでのソ連の拡張阻止などに動いた。カーター氏は為(な)すべきことに気付いたのだ。だが、オバマ氏にはカーター氏のような「ステーツマン(優れた識見をもつ政治家)」になる兆しは見られない。
米国が影響力を取り戻すには何が必要か。
オバマ氏がしてきたことを全て転換することだ。オバマ氏が縮小させた軍事力を増強するとともに、同盟国・友好国を明確に支援する必要がある。同盟国・友好国を支援する米国の能力について一切疑問を抱かせない立場に戻るには、すべきことがたくさんある。
例えば、中国が人工島を建設して南シナ海で勢力を広げている。これに対し、米国が明確なメッセージを送るには、海軍のプレゼンスが重要だ。だが、オバマ政権は海軍艦艇の数を減らしてきた。まだひどい状況ではないが、これを反転させ、海軍を再建しなければならない。
その意味で、11月の大統領選は極めて、極めて、極めて重要な選挙となる。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)