任官辞退の実情

 3月21日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式が行われた。今年の卒業生は419人(留学生を含む)で、任官辞退者は47人。昨年よりも 約2倍の人数となった。

 卒業式の模様を伝えたテレビのニュースなどでは、任官辞退者が増えた理由として「29日から施行される安全保障関連法の影響や、景気が良くなったため、民間企業への就職希望が増えたため」と解説していた。果たしてそうなのだろうか。

 任官辞退者は卒業式に参加することを許されない。別室で、学校長から卒業証書を渡される。卒業生の中には、任官の意思がないのに、卒業式に参加したいために「任官の書類」に署名するが、陸海空幹部候補生学校に着校しない学生もいる。

 実際、今年の任官辞退者数と同じぐらいの学生数が例年、卒業後、数日から数カ月以内に辞めている。今年が例年よりも目立って多いわけではない。安保法も景気も関係なく辞めているのだ。

 すでに24日に空自の幹部候補生学校に着校しなかった学生がいる(陸自と海自の幹部候補生学校は29日が着校日)。

 今年は、幹部候補生学校に着校しない学生や、着校はしたものの、途中で幹部候補生学校を辞める学生の数をできるだけ少なくするために、防衛大の指導教官らによる任官辞退者に対する締め付けが緩かったと聞いている(今年の卒業生の声)。

 私も防衛大の卒業生の一人として、誤解を恐れずに申し上げれば、卒業生の約9割が任官することの方が驚きである。

 防衛大に入学する学生の大多数が、幹部自衛官になるという強い目的意識を持って入学しているわけではない。防衛大を大学受験の一校として受験する学生や、一般の大学よりも入学試験の時期が早いために、模擬試験(受験料は無料)のつもりで受験する学生が多いからだ。

 任官辞退を推奨するわけではないが、民間で活躍する卒業生の中には、55歳前後の年齢で定年退職する自衛官の再就職の援護に協力している者もいる。同じ釜の飯を食べた仲間との絆は、いつまでも続いているのである。

(濱口和久)