災害とリーダーの資質
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から5年が過ぎた。被災地以外では、一部に「風化」というムードもあるが、被災地はいまだに復興の途上に あり、大きな爪痕を残している。
この機会に、私は昭和9(1934)年に寺田寅彦が書いた「天災と国防」を改めて読み直してみた。
少々長くなるが、その中に書かれている文章を紹介したい。
「戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないだろうが、天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけには行かない。そ の上に、いついかなる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それ だから国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである。」
気象衛星や気象レーダー、コンピューターの発達によって、台風や大雨による災害の予測は寺田の生きた時代よりもはるかに向上し、ある程度可能と なった。だが、完全に人間の力で災害の発生を防ぐことはできない。
東日本大震災後、30年以内に70%の確率で起きることが予測されている首都直下地震や南海トラフ巨大地震についての被害想定が、テレ ビ・新聞・雑誌などで取り上げられるようになった。この想定通り、あるいは想定を超える被害が出たら、日本は間違いなく壊滅的な状態となるだろ う。実際、被害想定通りの被害が起きれば、日本発(東京発)の「世界恐慌」が起きてもおかしくないのだ。
また、東日本大震災では、自衛隊は大きな力を発揮したが、首都直下地震や南海トラフ巨大地震規模の地震が起きた場合に、現在の自衛隊の人員で機 動的な活動ができる保証はどこにもない。
加えて、災害時にはリーダーの資質も問われてくる。東日本大震災時の菅直人首相のリーダーとしての資質には問題があった。
最後に、すべての日本人が、常に災害と隣り合わせで暮らしているということを、自覚すべきであると私は思う。
(濱口和久)