「インド太平洋」構想を明記 横浜宣言採択


 日本政府が主導しアフリカ開発を話し合う第7回アフリカ開発会議(TICAD7)は30日、「横浜宣言2019」を採択し閉幕した。横浜宣言には安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想を初めて明記した。またアフリカ支援策では、人材育成や「質の高いインフラ」などの「日本らしさ」を強調し、アフリカ地域で存在感を強める中国との違いをアピールした。

中国念頭、対抗姿勢鮮明に

 「自由で開かれたインド太平洋」構想は、首相が16年の前回会議で提唱したが、TICADの成果文書に明記されるのは初めて。「一帯一路」構想に基づく巨大インフラ投資などによってアフリカ地域で存在感を強める中国に対抗する狙いがある。宣言文では同構想に「好意的に留意する」と表記された。また南シナ海やアフリカ沿岸における中国の海洋進出を念頭に、「国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋秩序の維持」の重要性を共有する旨が盛り込まれた。

TICAD7

TICAD7の共同記者会見で質問に答える安倍晋三首相=30日午後、神奈川県横浜市(森啓造撮影)

 さらに、6月の主要20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で合意した「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を「歓迎する」と明記した。同原則は、持続可能な成長、環境への配慮、透明性・債務の持続可能性などを掲げている。中国の過剰融資で一部の国が債務超過に陥っている現状は国際的にも問題視されており、こうした点を暗に批判。改めて中国を牽制(けんせい)した形だ。

 アフリカ支援において日本は国際的にも「古参」の立場だ。首相は閉会式で「TICADは1993年に誕生してから一貫してアフリカのオーナーシップを尊重する」と述べ、国際社会に先駆けて支援を行ってきたことを強調した。ただ、投資分野においては豊富な資金力を持つ中国に後れを取る。このため今回の会議では民間投資の拡大も大きなテーマの一つで、首相は民間投資の拡大を加速させる方針に繰り返し言及。官民が一体となってアフリカ支援に取り組む姿勢をアピールした。

 また今回の会議を通して、国連安保理改革に共同の課題として取り組むことを確認したほか、宣言文に2022年の第8回会議をアフリカで開催することを明記した。会議にはアフリカ54カ国中53カ国の代表が参加し、うち42カ国からは首脳級が来日した。

(TICAD7取材班)

アフリカ支援に日本らしさ

 第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で採択された「横浜宣言2019」は、支援策の3本柱として①経済構想転換の促進およびビジネス環境の改善②持続可能で強靱(きょうじん)な社会の深化③平和と安定の強化―を掲げ、これを後押しするため、「横浜行動計画2019」を取り決めている。

 宣言は「アフリカのオーナーシップと国際社会のパートナーシップ、包摂性及び開放性」を基本理念と確認し、アフリカ連合(AU)の開発計画である「アジェンダ2063」や「フラッグシップ・イニシアチブ」などと対応した支援策を講じることで、アフリカの成長を希求した。

 閉会のあいさつで安倍首相は、「日本企業は人を育て技術を伝え、相手国や地域社会とともに発展している」と述べるとともに、「日本政府は民間企業のアフリカにおけるさらなる活動を後押しするため、支援を惜しまない」と、官民一体の協力を強調した。

 資源が豊富な大陸でありながら貧困問題を長く抱えたアフリカに寄り添い、若年層を中心に14万人の職業訓練や3000人のビジネスに資する人材育成を目指すなど、日本らしい貢献策でウィンウィンの関係を築こうというものだ。首相が今回表明した3年後のTICAD8までに過去3年の200億㌦を上回る民間投資の実現は、アフリカ側のリスク軽減にもかかっている。

 一方、首相は共同記者会見でアフリカに巨額の投資を行っている中国について「重要なアクター」と認めながらも、「債務の持続可能性が求められる」と過剰投資に問題が生じていることを指摘した。行動計画にはアフリカのビジネス環境改善の一環として、公的債務・リスク管理の実施や債務管理・マクロ経済アドバイザーの派遣などを盛り込み、健全なビジネスの成長を促す。

 「債務の罠」回避に結びつくかはアフリカ諸国の対応にかかっている。ただ、中国の莫大な投資は魅力であることに違いない。昨年、北京で開かれた中国アフリカ協力フォーラムには53カ国の首脳級が参加し、習近平主席は600億㌦の投資を打ち出した。

 外務省が発表したTICAD7に首脳級が参加したのは過去最高の42カ国。外務省担当官は「参加国数を競争しているわけではない」と述べ、日本の主導によるTICADで議論された宣言や行動計画を支持する参加国と協同する重要性を訴えた。

(TICAD7取材班)