教育無償の後ろ盾に改憲必要 馬場伸幸氏
日本維新の会幹事長 馬場伸幸氏
日本維新の会は憲法改正で「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目を提案しているが、安倍晋三首相も、教育の無償化に前向きな姿勢を示している。
教育の無償化について言えば、貧困の連鎖の問題がずっと言われ続けている。しかも、東京一極集中が進み、東京と地方の経済・所得格差は拡大する一方だ。
それで、われわれは貧困の連鎖を断ち切るためには教育を無償にして教育を受ける機会を平等化すべきだと申し上げた。ところが、各党の反応は惨憺(さんたん)たるもので、自民党議員ですら「なぜ憲法改正が必要なのか、法律でできるだろう」というので、法律を出したら審議すらしない。やる気がないのだ。他党はもっと冷たかった。
ところが、憲法改正の案件として提示すると国民からの反響が高まったものだから、急にあちこちから教育の無償化を言いだしてきた。総理は当初から良い案だと言っていたが、永田町でも理解が広まってきたのではないか。
憲法改正私案を出した民進党の細野豪志氏は、憲法に規定することで終戦直後の困窮の時期でも義務教育の無償化が実現し、日本の発展の礎が築かれたと指摘している。
憲法26条に義務教育の無償化が書かれている。憲法に書き込まれれば、法律が生み出されて、行政がそれに従って動かざるを得なくなる。根本的に貧困の連鎖を断ち切るためには、やはり憲法にきちんと書いて予算を十分に付けなければならない。そのことを細野さんもよく勉強され、理解したんだと思う。
ただ、毎年数兆円の教育国債を新たに設けなければならず非現実的という反対もあるが。
借金ありきではない。われわれはまず徹底的に行財政改革をやって財源を生み出すと言っている。例えば、最低限所得保障の一種であるベーシックインカムを導入すれば、社会保障制度を簡素化して省庁、公務員を減らすことができ運用コストが削減できる。いろいろな手当、補助金も一本化すれば、財源も生み出される。抜本的な行財政改革をやって、それでも足らない場合は、税金を投入するということはあってしかるべきだと思う。
それと、子育て世代は一番お金が掛かるが、教育費をサポートすれば保護者の可処分所得が増えるし、教育費を心配する必要がないので確実に消費に回り、経済効果は大きい。教育の無償化にはこの二本立ての理屈があるわけだ。
自衛隊の合憲・違憲論争は尽きないが、自身はどう見ているか。
自衛隊は合憲だ。ただ、国民の多くは、憲法改正イコール9条の改正と誤解していると思う。自衛隊の活動の在り方については、一昨年の安保法制でほぼカバーされているので、9条を今すぐ変える必要はない。
ただし、変えるとすれば、第3項として自衛隊の位置付けを明記すること。自衛隊の隊員は入隊する時に、いざとなったら命を懸けると宣誓しているが、隊員のメンタルの面も考慮して、第3項で自衛隊が国を守るということを明記する。これで「自衛隊合憲」も整合性がつく。
改憲を軸に政界再編も
各党の立場はさまざまだが、擦り合わせはどのようにすべきか。
十分な議論の上で、わが党が提案している3項目のうち、理解されないものがあるとすれば否決もやむを得ない。逆に、もしも緊急事態条項について勘違いがあるとしたらわれわれも賛成するのにやぶさかではない。
そこは政治の駆け引きになってくるので、より多くの政党が賛成する項目に自動的に絞り込まれてくるが、ただ単に3分の2を超えるということではなく、なぜ憲法改正が必要なのかを納得してもらえる舞台を国民に見ていただかないといけない。
国民投票で否定された場合、後遺症がずっと残るのではないかという懸念の声もある。
下手をすると内閣が吹っ飛ぶ。国民投票にかけるのは二つか三つと言われているが、そのすべてが否決された場合、以降、憲法改正に取り組む政治家はいなくなるだろう。
憲法審査会で議論が進まないのは、多くの政治家がその行方に不安、恐れを抱いているからだ。党が割れるのではないかと懸念される政党もある。だから、1回やって、三つのうち二つは通ったということを慎重に積み重ねていって、憲法改正は当たり前という雰囲気を国民の間に広げていくべきだ。
将来、改憲を対立軸に政界再編の動きが起きる可能性は。
政治家は、一番大事な資質である信念や理念、哲学がなければ生き残れない。それがない政治家がグループを組んでも国民によって淘汰(とうた)される。憲法改正の議論が深まるに従って、グループに分かれていくことはあり得るだろう。その時、われわれは第三極から第二極を目指して自民党と対峙(たいじ)する改革保守政党になることを目指している。
(聞き手=政治部・小松勝彦)






