温室ガスゼロ 原発再稼働、新増設を軸に


 菅義偉首相は、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにすると表明した。地球温暖化による気候変動が深刻化する中、「脱炭素化」へ向けて各国の動きが活発化している。日本も取り組みを強化するのは当然だ。達成へ首相の強いリーダーシップが求められる。

 震災後稼働は9基のみ

 温暖化対策では、国際的枠組み「パリ協定」で産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑えることが目標となっている。実質ゼロの達成時期については、欧州連合(EU)が50年を目標とすることを表明。中国も今年9月、60年までに目指すと表明した。

 これに対し日本は、地球温暖化対策計画で「50年までに80%減」を掲げ、実質ゼロ達成時期に関しては「今世紀後半のできるだけ早い時期」として明確にはしてこなかった。

 わが国は、温室ガス削減について初めて各国目標を決めた1997年の「京都議定書」や、気候変動問題を中心議題とした2008年の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)などで温暖化対策を牽引(けんいん)したものの、その後は取り組みの弱さから指導力を失った。50年までにゼロの目標を打ち出し、真に地球的な利益に立った日本が再び対策を主導する必要がある。

 とはいえ、新たな目標の達成は容易なことではない。実現可能な実効性のある対策を、限られた期間の中で実行していかなければならない。

 これまで温暖化対策は、太陽光や風力など温室ガスを排出しない再生可能エネルギーの導入、産業面、生活面での省エネなどを中心に進めてきた。だが、これらには限界がある。温室ガスを排出しない新エネルギーや、環境技術の開発実用化に期待が集まるが、不確実性があり、ある程度の時間を要する。

 設定された期限や技術面から見ても、温室ガスを排出しない原発の再稼働や新設、増設が最も確実な方法であることは明らかだ。11年の東日本大震災まで、日本には54基の原発があり、全発電量の約30%を供給していた。しかし、東京電力福島第1原発事故以後、再稼働した原発は9基にとどまっている。

 現行のエネルギー基本計画では、30年度の電源構成で原子力は20~22%にするとされている。このためには約30基の原発の稼働が必要だ。菅首相は、原発の新増設について「安全を優先して、従来通りの方針で進めたい」と述べた。

 新増設には反原発勢力の激しい反対が予想されるが、首相は温室ガスゼロの目標を高く掲げ、原子力による発電量の増加へ強く周到にリーダーシップを発揮する必要がある。政府が「重要なベースロード電源」と位置付ける原発を土台に、再生エネ導入をさらに進めていくべきだ。

 水素エネルギー実用化を

 新しいエネルギーや技術の開発に期待するところも小さくない。梶山弘志経済産業相は水素や蓄電池、カーボンリサイクルなど重要分野の実行計画を年内に取りまとめたいと表明した。とりわけ水素エネルギーでは日本は先端を行っている。開発と実用化へ政府の強力なバックアップが求められる。