文大統領演説 虚しい北への平和呼び掛け
韓国の文在寅大統領は国会で施政方針演説を行い、冷え込んでいる北朝鮮との関係について「平和が双方にとって共存の道」と述べた。
北朝鮮は米国などとの非核化交渉に応じながら密(ひそ)かに核・ミサイル開発を進めてきた。今後もその軍事力増強路線は続く公算が大きい。今の北朝鮮に何度平和を呼び掛けても馬耳東風であり、逆に虚(むな)しいだけだ。
有効でなかった太陽政策
文氏は演説で平和の必要性を何度も強調し、対話を通じた南北平和共存を訴えた。だが残念ながらこれまでの経緯が物語るように、どんなに平和を訴え、対話を重ねても、北朝鮮に非核化を推進させることはおろか、武力挑発を中断させることすらできずにいるのが現実だ。
文氏は9月に黄海で起きた北朝鮮軍による韓国公務員射殺・焼却事件に言及しながら、この事件が「平和体制の切実さを再確認する契機になった」と指摘した。韓国の大統領であれば北朝鮮との平和体制を語る前に、あのおぞましい事件を起こした北朝鮮の非道さを糾弾するのが先だったのではないか。
韓国に強硬姿勢を示す北朝鮮を対話の場に誘うため、文氏は人と家畜の感染病、災害・災難の克服に向けて南北が「生命・安全共同体」として共存することを提案した。北朝鮮が新型コロナウイルスの感染防止対策や台風による水害からの復旧などに追われている現状に鑑みたものだろう。
北朝鮮への人道支援は必要だ。しかし、それを隠れ蓑(みの)にして不透明な支援が行われないか国際社会は監視しなければならない。カネやモノが支援されるべき人や場所に届かず、軍事転用されたと疑われるケースがあるためだ。
そもそも文政権の対北融和策で朝鮮半島に真の平和がもたらされるのか極めて心もとない。対北融和のいわゆる「太陽政策」を敷いた金大中・盧武鉉両政権下で北朝鮮に対するアプローチが有効でなかったことは証明済みだが、あえてそれに執着するのはなぜなのか。
北朝鮮に核廃棄させ、人権蹂躙(じゅうりん)の独裁体制を終息させて初めて平和が訪れるはずだが、果たして文政権にそのような気概があるだろうか。
国の体制や思想・信条などの面で利害が真っ向から衝突する朝鮮半島周辺国との関係においても文政権は迷走続きだ。米国との同盟を必ずしも最優先せず、露骨な覇権主義が目立つ中国の顔色をうかがうがごとき姿勢は、北朝鮮とその後ろ盾となる中国の独裁的な体質を容認する結果になりかねない。
このようなことは韓国保守派や国際社会の識者も繰り返し指摘し、警鐘を鳴らしてきたが、文氏は念仏のように平和を唱えるばかりだ。金正恩朝鮮労働党委員長を頂点とする北朝鮮の特異な体制を実質的に変える試みを抜きにして平和が近づくことはない。
「インド太平洋」参加を
菅義偉政権は中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に意欲を示している。文政権がこれにどう関わるのか明確ではないが、日本は韓国に参加を促し続けるべきだ。