攻守の農業戦略で成長産業に
吉川貴盛 農林水産大臣
吉川貴盛農林水産相はこのほど、世界日報のインタビューに応じ、日本の農業は環太平洋連携協定(TPP)、日欧経済連携協定(EPA)の発効を控え攻めと守り両面の戦略が必要と強調し、大規模化やAI・ロボットなどを活用した担い手支援を強化していく意向を示した。(聞き手・小松勝彦)
TPP、日欧EPAの枠組みの中で農業戦略をどう進めていくか。
TPPに関しては、攻めもあれば守りもある。守りでは、国内対策をしっかり打ち出した。具体的には「産地パワーアップ事業」だ。農業そのものの底力をアップし、国際競争力を強化する。農家の方々にこの事業の助成制度を活用して、施設・機械面での充実を図っていただいている。
例えば、酪農関係では畜産クラスターの充実。畜産クラスターとは、畜産農家をはじめ、地域の関係者が連携して高収益型の畜産を目指そうとするものだ。これによって畜舎を新しく整備し、搾乳ロボットも導入できるようになり、大規模化・省力化が図られるようになった。さまざまな国内対策を打ち出す中で競争力が付いてきていると思う。
攻めの面ではどうか。
特にEPAに関しては、日本の農産物で輸出できないものが幾つかある。牛肉は欧州に輸出できるが、豚肉、鶏肉、乳製品、鶏卵は駄目。マヨネーズやカステラなども卵が原材料というだけで輸出できないのだ。
私は大臣になる以前からずっとEU側と交渉をしてきて、生卵は無理だとしても、輸出解禁後、一定の条件を満たせば、これらの品目を欧州に堂々と輸出できるようになる。これは攻めの部分である。守るだけではなく攻めの部分も考えながら、これからどうやって日本の農林水産業を強くしていくか。いま最も大切な時期に来ている。
「2019年に農産品輸出額1兆円」の目標達成の見込みは。
17年の輸出額が8071億円だった。今年の上半期で約15%の伸びが出てきている。来年の1兆円の目標は、十分に目標達成できると思っているが、安心はできない。今年から中国向けに米の輸出が兵庫県と北海道の精米工場からできることになった。日本の美味(おい)しいお米の輸出も増やし、1兆円の目標が達成できるよう頑張りたい。
より大胆な目標を掲げる考えは。
和の文化と併せて、和食ブームで日本食の良さが本当に世界に知れ渡ってきた。農水省の食料産業局で、アジアなどに日本食の文化を広めるためいろいろな事業を展開してきたが、日本の安全で安心な農産物や水産物をさらに海外展開していけるチャンスだと思っている。どんどん世界に売り込んでいこうという思いでいっぱいだ。
AI、ロボットで担い手育成
日米物品貿易協定(TAG)交渉の見通しは。
日米の物品貿易交渉が首脳間で、「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であるという日本の立場を尊重すること」で合意し、共同声明でもしっかりと打ち出された。その共同声明の内容に沿って、物品交渉が始まると私は思っている
ただ、意外とみなさんが誤解しているのは、農林水産品だけが俎上(そじょう)に載って物品交渉が行われると思われがちな点だ。自動車や鉄鋼製品、工業製品などかなり広範囲の物品交渉になるのだ。だから相当時間を要する。私たちのスタンスとしては、農林水産品に関しては「TPP以上のものは譲らない」ということだ。
食料自給率の現状についての認識はどうか。
食料自給率は現在約40%だ。米離れもあり、少子化で人口減少の局面にあるので、消費量を増やすのは大変だが、米の良さをさらに宣伝していく。農林水産省は26日に、情報サイト「やっぱりごはんでしょ!」を公開した。このキャッチフレーズで米の消費拡大運動を展開していく。
肉類や鶏卵については、国内生産が堅調に推移してきており、自給率アップのために重要だ。麦や大豆も安定した収量を確保できるように、新品種の開発なども含めて、しっかりやらなくてはいけない。
「農業の成長産業化」がアベノミクスのキーワードの一つだが、農業改革をどう進めていくか。
「成長産業化」という言葉を使って、日本の農業を改革し、力強いものにしていこうとしたのは、安倍内閣が始まってからだ。この5年ないし6年間の中で、農林水産業は国の基であり、成長産業に育てていかなければという意識が出てきた。
そのために一番大切なのはやはり、若い担い手の育成だ。それが政策課題の一つの大きな柱でもある。
一例を挙げると、今年7月の豪雨災害で大打撃を受けた愛媛県宇和島で、若い担い手のみなさんが協力し合うことによって極早生みかんの出荷ができるまでにこぎ着けた。災害にも負けずに、さらに法人化を目指し新たな動きに発展させようとしている。私たちはこうした若い担い手を手助けしていきたい。
49歳以下の新規就農者がここ4年連続で2万人を超えた。これは画期的なことだ。若い農家のみなさんが頑張れるよう成長産業化に向け取り組んでいきたい。
AIやロボットなどの活用で魅力ある農業ができると思うが。
AI、ロボットなどを使ったスマート農業は、大規模経営だけでなく中山間地域でも活用できる。腰が痛まないようにするアシストスーツが開発されたりもしている。これもスマート農業の一つだ。
これまでトマトやイチゴの栽培は手作業でやってきたが、今やロボットが収穫する時代になりつつある。実用化まであと一歩。大区画化された農地では無人トラクターなどの実用化が半歩手前まで来ている。
農林水産省は規制改革をしない官庁じゃないかと言われてきたが、決してそうではない。
いまは補助者なしでは農薬散布ができないドローンの規制を取り払うよう国交省と検討している。スマート農業をどんどん取り入れて成長産業化につなげていこうと思う。