トランプ政権と日本、不健全な米依存から脱却を
米ペンシルベニア大学教授 アーサー・ウォルドロン氏
トランプ次期米政権下で日米関係はどうなる。

アーサー・ウォルドロン氏 米ハーバード大学で博士号取得。1997年からペンシルベニア大学歴史学部教授。専門はアジア・中国史。米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」委員やアメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)アジア研究部長などを歴任。
今まで以上に良くなるだろう。安倍晋三首相がそれを強く望んでいる。安倍氏がハワイ・真珠湾を訪問したことは極めて意義深い。日米両国が過去の戦争の惨禍をめぐり和解することは、両国に大きな喜びをもたらす。日米間で今起きているすべてのことが非常に建設的だ。
トランプ次期大統領の外交・安全保障政策の方向性は。
米国の利益と同盟国を強力に支持するアプローチを取るだろう。また、前政権よりも経済に注意を払うとみられる。
トランプ氏は第2次世界大戦以降、最低レベルとなった米軍戦力を増強するだろう。それと同時に、同盟国に自分で自国を守る責任を果たすよう要求するだろう。能力もお金も技術もあるドイツや日本を守るために、米国民に税負担させることはない。
「米国第一」を掲げるトランプ氏は、沖縄県・尖閣諸島を含む日本防衛義務を果たすだろうか。
米国は日本を支援する。だが、米国が日本の代わりに戦争をしたり、日本を守るために核兵器を使用すると考えるのは誤りだ。米大統領が米本土以外を守るために核兵器を発射するとは信じられない。
日本と韓国は、英仏の例に学ぶべきだ。英仏は米国の最も古い友好国だが、共に潜水艦発射型ミサイルで侵略国を破壊できる独自の最小限核抑止力を持つ。米国が日本を守るために血みどろの核戦争をするというのは幻想にすぎない。日韓は独自の核兵器を持つべきだ。
トランプ氏は大統領選で日韓の核武装容認を示唆する発言をした。日本にとって核保有の是非を議論する機会になり得るか。
日本のエリート層は核保有の必要性を理解しているが、国民の多くが反対している。だが、中国は必要なら核で脅迫することも辞さない国だ。中国が日本に「尖閣諸島を放棄しなければ、東京に核を落とす」と言ってきたらどうするか。日本は何もできない。米国も何もしない。
もし私が日本人なら、中国に「そんなことをすれば、北京を破壊する」と言えるように核保有を望む。日本は今すぐ核抑止力を持つべきだ。本当は数年前に着手すべきだった。
日本はトランプ政権誕生を過度な対米依存から脱却する好機とすべきか。
その通りだ。日米関係は不健全だ。米英関係を見てほしい。英国は独自の核兵器を保有し、自分で自国を守れる。日本はそれができない。日本は世界で最も先進的な国家でありながら、国防は自分の手の中にない。日本が米国の影から離れることは健全なことだ。
アジアの情勢は変化しており、平和はもはや当たり前ではない。日本は自分で自国を守れるように強くならなければならない。米国は日本との緊密な同盟関係を強く望んでいるが、日本を守るために米全体を危険にさらすと考えるのは非現実的だ。
経済を優先し、防衛を軽視した「吉田ドクトリン」の時代は終わったのだ。問題は、日本が新たな防衛政策をどうするかだ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)





