中国が覇権握る世界は悪夢
―識者はこう見る
作家・日本大学教授 楊逸氏(下)
中国共産党だけでなく共産主義というのは、平和は不都合、紛争を起こさないといけないという考えだ。ロシア革命を起こしたレーニンは、世界革命の実現を目指してコミンテルン(共産主義インターナショナル)を結成した。第1次と第2次コミンテルンはヨーロッパ各国で武装蜂起を呼び掛けて支援し、ドイツ、ハンガリー、イタリアなどで紛争を起こしたものの、いずれも失敗に終わった。
そして第3次コミンテルンはスペインの内戦に介入。ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』では、同じ村人だった人々が敵味方に分かれ殺し合う、分裂、分断が生々しく描かれている。
コミンテルンは中国共産党の成立から関わっており、後に毛沢東が実権を握ったのもそのサポートがあってのこと。当時、毛沢東がコミンテルンから「大金」をもらっていたという「明細」が、最近ネット上に流出した。暴力革命、独裁、内ゲバ、粛清。残酷な手法は悪そのものだ。
国内を治めるためには、外に敵がいた方が都合がいい。私も小さい頃から米国をはじめとする欧米の帝国主義は敵だと思っていた。中国を変えようとたくらんでいるとか、ソ連は裏切り者で修正主義だとか。鎖国状態なので他の国はどんな状態か分からない。いつ攻めてくるか分からないと毎日おびえていた。
1980年代後半からの改革開放でそれが間違いと気付いた。それまでは民主主義とは中国のことで、米国は帝国主義、日本は侵略主義、ソ連は修正主義と思っていた。今思えばとんでもない話だが、今もそうして国民を騙(だま)している。米国は自分を棚に上げて中国に経済制裁し、いじめていると批判している。中国人はそれを聞いて、国がこんなに大変だから自分は我慢しようと考える。そのような愛国心や人の優しさを体制の延命のために利用している。
「米ドルはそのうち紙切れになる、人民元を世界で使えるようにしよう」と宣伝している。世界で一番強いのは人民元で、米国人も今は皆、人民元を買っているなどとまことしやかに語られている。習近平主席は口癖のように「中国の夢」「中華民族の復興」と言っているが、それは世界の一番になるということ、中国が米国に代わって世界の覇権を握ることだ。
もし中国が世界の覇権を握ったら、私は逃げる場所を考えなければならない。そうならないように、恫喝(どうかつ)されながらも一生懸命本を書いている。
そういう時に、中国共産党100周年に次々と祝電を送る日本の政治家がいるのを見ていると、恐ろしくて仕方がない。今対抗しないといけないのに対抗心がない。日本はすぐ隣だから地理的に仕方ないことがあるかもしれないが、米国や欧州など動いている国もあるので、それに期待したい。
香港の「リンゴ日報」が廃刊になり会社も倒産した。中国が世界の覇権を握れば、中国国内そして香港で起きているように言論の自由が弾圧され、ジョージ・オーウェルの『1984』のような監視社会が世界中に広まってしまうだろう。
ここ数カ月、新型コロナウイルスの発生源についての「新事実」、米英のメディアが中心にさまざま報道するようになった。中でも「武漢ウイルス研究所から流出」説は最も有力で、「故意か」「事故か」については、さらなる調査が必要だが、見守りたいと思う。
中国は国内の感染を抑え込んだと言っている。疫病対策でも一党支配の方が優れている、という体制宣伝に、来年開催予定の北京冬季オリンピックが利用されるに違いない。五輪の是非は、新型コロナウイルスの発生源とパンデミックの責任を明らかにした上で議論すべきだ。(談)