暗号データ主戦場に敵対、コロナ抑え込み自信増す


《米国優位を奪う中国(下)》

新田容子氏 日本安全保障・危機管理学会上席フェロー

民間では中央銀行のない仮想通貨ビットコインなど取引が普及している。

インタビューに応じる日本安全保障・危機管理学会上席フェローの新田容子氏

新田容子氏
日本安全保障・危機管理学会上席フェロー

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 ビットコインは米電気自動車メーカーのテスラの投資などで注目されたが、それ以上にCBDC(中央銀行デジタル通貨)を実用化し中国は自分たちが暗号資産の時代へとレールを敷いて主導しようとしている。習近平国家主席は一昨年、ブロックチェーン(分散型台帳。暗号資産取引を支える技術)で追随を許さないと断言している。

中国は量子コンピューター「九章」を開発し、日本のスーパーコンピューター「富岳」で数億年かかる計算を200秒で解くレベルというが。

 それが国力を表すものになっている。今、米国が焦っているのは優位性を保っていた分野がどんどん中国に奪われて、無くなってきていることだ。AI(人工知能)、ロボット、量子コンピューター、プレシジョン・アプローチ・レーダー(精測進入レーダー)など、先端技術を中国に握られるとどうしようもなくなっていく。軍事的には遠隔操作で寸分の狂いもなく相手を破壊できる。

 米軍のサイバー軍や特殊部隊が強調していることは、「見えること」「認証できること」だ。相手が見えて認証できれば勝ちだという。それにはAI、ロボットなど先端技術が決め手になる。中国がそこをどんどん開発しているために、米国も巨額の資金を投じて優位性を確保しようとしている。DARPA(米国防高等研究計画局)が4月初めに「量子ベンチマーク」(優れた量子コンピューター開発に向けたプロジェクト)を発表した。ここを中国に取られると米国が今までの米国でいられない。中国が支配する世界になる。

サイバー戦争にも関わるのでは。

 今の情報戦は「データ」だという。「見えること」の「認証」にはあらゆる情報データの収集力やメガデータの処理能力を要される。暗号化されたデータを読み取れて、暗号通信ができるデータ・アナリストの下での活動がエスピオナージ(諜報〈ちょうほう〉)の主流になっている。

 中国は量子コンピューターについては独自でなく、カナダと共同研究してきた。将来、何が国の発展に寄与していけるものかをきちんと見ているし、必ずそこを成功させている。これまで半導体、宇宙、電動自動車などいろいろ手を打ち、あまり大きな失敗はしていない。

思想統制した共産党一党独裁体制国家のそのような動きに懸念がある。

 批判されても中国は自信満々だ。新型コロナウイルスのためだ。中国の感染者数や死亡者の発表数は疑問もあるが、米国はじめ主要な国々で収束しない一方、都市封鎖などを厳しく行い抑え込みをした。自分たちの体制、やり方が機能する、デモクラシーは機能しないじゃないかと自信を持ったのが今の中国だ。

 米中外交トップが会談冒頭に非難応酬したが、中国は米国の民主主義は通用しない、自分たちの方が優れているという自信を持ち、コロナ前より今の方が態度が強い。

情報力で優位性取り戻せ

そのような中国にどう対応していくべきか。

 戦後、戦勝国の米国とその同盟国が国際秩序をつくってきたが、今では新疆ウイグル自治区の人権侵害を批判しても、領土領海の主権侵害を抗議しても、何一つ中国を止めることができないのが現実だ。経済関係を中国に握られて人権と正義の線引きができないのが正直なところだろう。

 人権など言葉で批判するだけでは通用しない。やはり優位性を持つことであり、中国が民主主義諸国に及ばないという優位性の事実をつくらないと、変えることはできない。

 優位に立つ分野の一つに情報力があると思う。中国のプロパガンダとかディスインフォメーションはすごい力を持っていて、日本は中国のプロパガンダをその都度訂正し、自国の意思を伝え、本質を見極める情報力でインフルエンス・オペレーションができればいいと思う。経済で抜かれ優位性を保てるのはそこしかない。

(聞き手=窪田伸雄)