イランのウラン濃縮施設で電源破壊、イスラエルのサイバー攻撃か
イランは10日、中部ナタンツの核施設でウラン濃縮のための高性能遠心分離機の稼働を開始したと発表した。しかし、11日、電力を供給する電気系統が破壊され、遠心分離機は停止した。イスラエルのメディアは、情報当局者らの話として、イランと敵対するイスラエルによるサイバー攻撃の可能性を報じた。イスラエルは、紅海でイランの船が攻撃を受けたことへの関与も取り沙汰されている。(エルサレム・森田貴裕)
紅海での船舶攻撃も関与
イランのメディアによると、イラン原子力庁報道官は11日、ウラン濃縮活動を行っている中部ナタンツの核施設で電気系統の事故が起きたと発表した。死傷者や大気への汚染はないという。サレヒ原子力庁長官は、テロ行為によるものと断定、「イランはこの危険な行為を非難するとともに、国際社会や国際原子力機関(IAEA)が核テロリズムに対処するよう」訴えた。さらに「われわれは実行犯に対して行動する権利がある」と、何らかの報復を行う可能性を示唆した。
IAEAの査察対象になっているナタンツの核施設は、イランのウラン濃縮活動の中心的役割を担い、新型の遠心分離機を10日に稼働させたばかりだった。ロウハニ大統領は10日、ナタンツに新設されたウラン濃縮施設の開所式で、新たに遠心分離機「IR6型」164機を連結したカスケードの稼働を開始したと発表した。「IR5型」30機と「IR6S型」30機を連結した試験用カスケード2組の稼働も開始した。また、旧来型のIR1型よりも50倍速くウランを濃縮する最新の「IR9型」の試験も行い、イスラエルが関与したとされる2020年7月の爆発で破壊されたプラントの後継となる遠心分離機の組立工場も公開された。ロウハニ師は、テレビ中継された式典で「イランの核開発活動は、平和目的のためだけにある」と再度強調した。
イランは、15年の米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国とイランが合意した核合意に基づき、ウラン濃縮のための遠心分離機は旧来型のIR1型しか使用できず、少数に制限された高性能な遠心分離機は濃縮ウランを貯蔵しない研究にのみ使用が許可されている。今回新設されたウラン濃縮施設は、合意違反になる。トランプ米政権が18年5月に合意から一方的に離脱し対イラン経済制裁を再開して以降、イランは合意違反を繰り返している。
イスラエルのメディアでは、一部の西側情報当局者らの話として、ナタンツの事故の背後でイスラエルの対外情報機関モサドが暗躍し、サイバー攻撃を仕掛けた可能性があると指摘した。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が、情報当局者2人の話として報じたところによると、ウラン濃縮を行う地下核施設に電力を供給するため厳重に保護された独立系統の内部電源システムが、爆発によって完全に破壊されたという。この爆発は、ウラン濃縮活動に甚大な被害をもたらし、濃縮活動再開までに少なくとも9カ月かかるという。
ナタンツの事件は、イスラエルが強く反対しているイラン核合意の復活を目指して、当事国間の協議がウィーンで進行している最中に起きた。
イスラエルのネタニヤフ首相は11日、イスラエル治安部隊をたたえる式典で「イランやその代理武装勢力との戦い、そしてイランの核武装化は大きな課題である」と述べ、ナタンツの事件については言及しなかった。
イスラエル軍によるとみられるイランへの攻撃は、海上でも行われている。イランのタスニム通信は6日、紅海でイランの船の船体に仕掛けられた「リムペットマイン」と呼ばれる爆弾が爆発したと報じた。
イスラエルの民間情報機関が公開したイランの船の衛星写真によると、イランの船は攻撃以来、移動しておらず、イエメンとエリトリアの間の紅海に停泊し、革命防衛隊の浮遊基地になっていることを示している。
イランの脅威から自国を守ると警告するイスラエルは、中東での軍事的優位を確保するため、今後もイランへの攻撃を続ける可能性が大きい。