米国優位を奪う中国、デジタル通貨で影響拡大


《米国優位を奪う中国(上)》

 中国の覇権主義・人権侵害などに国際非難が起き、米バイデン政権は同盟国と対中包囲網を形成する一方、巨大市場をカードに対抗する中国は中央銀行デジタル通貨(CBDC)でデジタル経済に影響力を増そうとしている。日本安全保障・危機管理学会上席フェローの新田容子氏に聞いた。(窪田伸雄)

国益と経済切り分けず

経済大国になった中国の覇権主義を懸念し、米国を中心に包囲網を築く動きが強まっているが。

新田容子氏1

新田容子氏
日本安全保障・危機管理学会上席フェロー
日本安全保障・危機管理学会上席フェロー。インテリジェンスおよびロシア担当。2016年2月まで防衛大学客員研究員。専門は主にロシア、欧州、米国、中国、北朝鮮の情報戦争とサイバーセキュリティー。米、英、仏、独と連携するサイバーG5(知的所有権窃盗等)専門家会合の委員。仏国立行政学院およびパリ政治学院でサイバーセキュリティーチーム指導担当官。

 中国側も、クアッド(日米豪印)など対中国側もシステミック・アプローチが不可欠だ。外交・安全保障・経済など全体を捉えた自国利益の追求だ。厄介なのは、かつて米国とソ連が対峙(たいじ)した東西冷戦のように経済と安保を切り分けられない。経済力がなければ国際社会のプレゼンスが低く、中国のマーケット・エコノミーは追随を許さないところまで来ている。

中国のCBDC「デジタル人民元」が昨秋から実証実験され、近く実用化される。ドル基軸体制への挑戦とも言われるが。

 デジタル人民元の計画が表面化したのは2017年だが、構想を立てたのは相当前で世界的に通貨不安が起きたリーマン・ショックの時だ。金融破綻で資本主義がいきなり崩れ、何とか世界の経済が持ちこたえたのは中国のおかげだった。中国はドル基軸体制から自分たちの出番が来たと考えたと思う。

米通商代表部(USTR)は中国の不公正な貿易、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害を指摘し、あらゆる手だてで対抗する構えを示しており、デジタル経済を管理する高水準の国際ルールを同盟国や同じ価値観を持つ貿易相手国と確立すると訴えたが。

 USTR報告書は同盟国として聞き心地がいいが、実現できるかどうかだ。米国がバイデン政権になってもやろうとしていることは、中国の経済力を削(そ)ごうということだ。通貨は経済の根幹であり米国もデジタル人民元に目を光らせている。デジタル人民元など使うべきではないと言いたいわけだ。

 しかし、中国は意にも介していないと思う。「一帯一路」、RCEP(地域的な包括的経済連携)など自分たちの市場が大きいからだ。中国はCBDCを契機に人民元建て貿易を増やそうと経済と国益を切り分けないシステミック・アプローチを進めるだろう。

 デジタル・ガバナンスでも米国などの構想と中国とでは違うと思う。ウイグルであり得ない人権侵害をする国が経済力を持ち、CBDCで資金を追跡する管理の網を掛けていく。

影響は大きそうだ。

 既に通貨の弱い国ではドルのたんす預金をビットコインなどの暗号資産に移すなど、やっているところはやっているので、中国の「一帯一路」に収まる国では資産をデジタル人民元にする流れは起こるだろう。

 昔は金融のドル基軸体制を崩す動きは米国が許さないというものがあったが、今では遠吠(ぼ)えにすぎないほど中国はどんどん進めてしまう。人口も多く、マーケットもサプライチェーンも全部持っているので中国に追随せざるを得ない。ある意味で中国のシナリオの中に世界はどんどん引きずり込まれている。