ウイグル問題、米欧が対中制裁
米国は3月22日、ウイグル人への人権侵害に対し中国に制裁を科した。欧州連合(EU)や英豪、カナダなども歩調を合わせている。ただ日本は制裁に慎重姿勢を保ったままだ。中国政府は「新疆の顔に泥を塗ることで中国を故意におとしめる内政干渉だ」と非難するが、人権は国境を越えて人類が守り抜かなければならない普遍的価値を有する。
(池永達夫)
反論も取材許さぬ中国
制裁に慎重な日本、対応迫られる
米国はトランプ政権時代からウイグル人への人権侵害に対し対中制裁を科してきた。バイデン政権も中国に対し「ジェノサイド(民族大量虐殺)と人道に対する罪を犯し続けている」として「友邦諸国と連帯して中国政府および中国共産党の残虐行為を白日の下にさらすことを目指す」と非難する。
EUは同17日、中国制裁に踏み切った。「人権侵害」にかかわった4人と一つの団体を対象とする。EUの対中制裁発動は1989年の天安門事件以来のことだ。
ただEUは昨年末、中国と投資協定締結で合意済みだった。バイデン米新政権が発足する前に、中国が欧州取り込みに動いた結果だ。中国は経済力をバーゲニングパワーに、外交的地ならしを試みたのだ。
この投資協定で加盟国は今年中に批准することが決められたものの、議会承認が必要なことから今回のウイグル人への人権侵害に対するEUの対中制裁発動で、空中分解する公算が強くなった。EU議会の四大会派を形成する3政党も同24日、「批准しない」との声明を発表済みだ。
なおウイグル人への人権侵害問題に関し、国連は2018年時点で最大100万人が収容所に拘禁されていると報告している。同自治区から脱出した人たちなどから、不妊手術の強制や施設内の虐待を訴える証言や動画も絶えない。また、世界のウイグル人が自分の家族に連絡できず、安否確認さえできない状況が今も続いている現状もある。
それでも中国政府は「強制収容所ではなく職業訓練所だ」と強弁し、「嘘(うそ)に基づく内政干渉だ」と反論する。
そもそも職業訓練所というなら、世界のジャーナリストに新疆ウイグル自治区の自由取材を許して公開すれば、一発で疑惑は解消するはずだ。「百聞は一見に如(し)かず」で堂々と国内を見せれば済むだけの話だが、中国は胸襟を開くことはせず言葉だけの反論に終始している。
記者は強制収容所に入れられた新疆大学のタシポラット・ティップ学長の弟ヌリ・ティップ氏にインタビューしたことがある。
ティップ学長は17年5月に、学会参加のためドイツへ向かう途中、北京空港で当局に拘束され強制収容所に入れられ翌年9月に執行猶予付き「死刑」判決が言い渡されている。同氏は東京理科大学大学院で理学博士号を取得した地理学の専門家であり、職業訓練を受ける必要はない。
なお自民党人権外交プロジェクト(PT)は先週、日本ウイグル協会幹部から迫害の実態を聞き取った。同PTは外国当局者に制裁を科す「マグニツキー法」整備についても論議した上で5月、中国の少数民族問題に関し政府への提言をまとめる方針だ。
政府はこうした助言を参考にしながら、6月に英国で開催される主要7カ国首脳会議(G7)までに基本政策を定める意向だが、中国に傾斜する財界をバックに媚中政治家が跋扈(ばっこ)する永田町でどれだけ骨のある対中政策を固められるか疑問視する専門家は多い。だが、普遍的価値観を共有できない国との共存は永続性を期待できないし、何より安全保障は経済に勝る優先事項である原則からしても、ここは腹を決めた対応が求められる。

のボレル外交安全保障上級代表(外相)(右)とブリンケン米国務長官(EPA時事)-300x183.jpg)




