中国が脱炭素化宣言
狙いは米との「新冷戦」終結
中国の習近平国家主席は昨年9月、国連総会一般討論でのビデオ演説で、2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指すと表明した。30年までに排出量が減少に転じる「ピークアウト」を達成し、60年までに排出量と除去量の差し引きをゼロにするというカーボンニュートラル宣言だ。
これまで中国は、気候変動問題の責任は先進国にあるとし、自らを発展途上国であるとして総量削減目標に踏み込んでこなかったことからすると画期的発言だ。ただ、中国の二酸化炭素(CO2)排出量は年間およそ100億㌧と米国を上回り世界一。脱炭素には相当に思い切った対策を打ち出す必要がある。何より中国は大量のCO2を排出する化石燃料への依存度が圧倒的に高く、エネルギー消費の3分の2は化石燃料が占める。
だが中国政府は早速、昨年11月に2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討に入った。その基本的骨組みは、50%を電気自動車(EV)を柱とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車(HV)にするというものだ。
これが実現できたとしても問題は近年、増加傾向にある石炭消費量をどう抑え込むかだ。中国はこれまで石炭火力発電所を多く建設してきた経緯がある。それを無理やり操業をストップさせれば投資額を回収できない「座礁資産」化する懸念が浮上。中国の金融システムを揺るがす重大問題にも発展しかねない。
そうでなくても近年、国有企業のデフォルト(債務不履行)が多発するようになってきているのだ。その意味でも、石炭依存からの脱却は容易ではない。
このため、中国のカーボンニュートラル宣言の本気度を測る指標は、石炭消費量の削減状況となる。が、約束を守らず、言葉と現実に乖離(かいり)があるのが中国共産党政権の特質だ。中国の今回の温暖化対策も、新たな対米戦略発動との疑惑は払拭(ふっしょく)しきれないものがある。考えられる戦略は、まず欧州を取り込んだ上で、「米国との新冷戦」終結に持ち込みたいというものだ。
50年の脱炭素目標を表明している欧州連合(EU)に対し中国は、10年遅れるものの同じ道を目指すと打ち出すことで、チベットや新疆ウイグル自治区などでの同化政策や香港への強権発動などによって鮮明になってきた欧州の反中姿勢を封印し、取り込みを図ろうとしている。
さらに、脱炭素社会の実現を米大統領選で公約したバイデン氏との協調姿勢を示すことで、トランプ政権で鮮明になった米中対決のムードを変える糸口をつかもうとしている。習近平政権は、温暖化や香港問題などで合意を見れば、「米中の新冷戦」は終了し、両国関係は短期間で回復するとの皮算用をはじく。ただし、中国側にしてみればあくまで国力増強の時間稼ぎ。いまだ圧倒的力を有する米国との対立を避けつつ、水面下で覇権拡大の布石を打ってくるのは必至だ。
(池永達夫)