コロナ禍の時代変容-欧州
変革も格差拡大も加速
民主主義国の再結束必要
地球温暖化をもたらす気候変動、新型コロナウイルス感染の世界的流行――。目に見えない大気とウイルスが人々の暮らしや環境を直撃し、急速な変容をもたらしつつある。世界恐慌さえ叫ばれたコロナ禍だが、株価暴落後にテレワーク化、エネルギーの脱炭素化など新産業に展望を開き、米株式市場で史上最高値更新をもたらした一方、国際社会に予測不能な変革の波が押し寄せている。
欧米先進国にとって、最大のライフ・イベントであるクリスマス休暇は昨年、新型コロナウイルスの深刻な感染拡大を受け、戦時下のような自粛を強いられた。結果として1年を通じて最大の収益が見込めるレストランや観光業などの接客業が大幅減益の中、スーパー、ネット通販は好調で明暗が分かれた。
一方、人々の移動が制限されたことで航空業界は軒並み深刻な減益に陥り、大規模な人員削減が続いている。航空業界の裾野は大きく、航空会社が軒並み大幅減益の中、たとえば米ボーイング社の最終赤字は4四半期連続計上し、深刻な状況にある。
その中で、昨年10月にスイス金融大手UBSと国際監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の調査報告では、保有資産が10億㌦(約1040億円)を超える超富裕層(通称、ビリオネア)の総資産額は過去最高を記録した。世界的な大量失業をよそに、世界のビリオネアの人数も総資産額も過去最高を記録した。
その分野は電気自動車(EV)テスラや民間人の宇宙旅行をめざすスペースX社を経営するイーロン・マスク氏を筆頭に、テクノロジー、ヘルスケア、製造といった業界のイノベーター(革新者)やディスラプター(技術革新による産業構造の破壊者)の超富裕層が増え、従来のエンターテインメントや不動産業界の超富裕層を数で上回りつつあると指摘している。
新型コロナウイルスは産業分野によっては致命的ダメージを与えている一方、温室効果ガス削減に貢献するEV需要や、ウイルス対策のワクチン開発などヘルスケア分野にとってはコロナ危機が追い風となっている実態もある。これは単純なコロナ特需というよりは、従来から時代の要請とされた変革が需要の伸びで加速したといえる現象だ。
政治やビジネス界で昨今強調されるサスティナビリティ(持続可能性)やレジティマシー(社会的正当性)が掛け声だけでなく、ポストコロナで確実に重要さを増したことが確認されたともいえる。つまり、深刻な公衆衛生上の健康危機から国家も企業も、よりリスクマネジメントを意識した責任ある行動が問われるようになった。
ポストコロナの問題は、その大義名分の方向性をいち早く政治利用し、あたかも環境対策の牽引(けんいん)役のふりをしながら覇権の政治的野心を隠し、影響力を強める権威主義の国々の脅威だ。特に中国のパワーは増大している。コロナ禍で経済的に弱体化した国が今後標的とされる可能性は高い。
昨年12月に死去したジスカールデスタン元仏大統領は、冷戦時代に先進国首脳会議(サミット)を実現させ、西側諸国の結束を促したことでソ連帝国崩壊に貢献した。ポストコロナは自由と民主主義の価値観を成熟させてきた米英などアングロサクソン系の英語圏5カ国によるファイブアイズに加え、フランスやドイツ、日本が結束する必要がある。
(パリ・安倍雅信)