経済成長と環境保護で板挟みのブラジル
縮小するアマゾン熱帯雨林
40%減りサバンナ化の恐れも
世界最大の熱帯雨林として、気候変動の鍵を握るアマゾン熱帯雨林。ブラジルにとっては、アマゾンに埋まる豊富な資源と開発は、経済成長に不可欠だが、国際社会で進む地球温暖化対策の中で、ボルソナロ政権は大きな政策判断を迫られる可能性がある。
ブラジルやコロンビアなど南米7カ国にまたがるアマゾン熱帯雨林の面積は、日本全土が14個以上すっぽり収まる550万平方㌔㍍を超え、地球全体の二酸化炭素(CO2)排出量の5%近くを吸収し、地球の気温を安定化させるための重要な役割を担っている。
その6割を有するブラジルでは、2019年1月のボルソナロ政権誕生後、熱帯雨林の消失速度が上がっている。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は、過去1年間で秋田県の面積にも相当する森林が失われたとの報告を出したばかりだ。
また、ストックホルムリサイエンスセンターの共同研究チームは今年10月、科学誌「ネイチャー」を通じて、2050年にアマゾンの森林が40%失われるとの論文を発表した。これが現実化すれば、アマゾンがサバンナ化し劇的な気候変動は避けられないとみられている。
ボルソナロ氏は、熱帯雨林の開発は経済成長と地域の復興に欠かせないと見ており、これまで保護を訴えるマクロン仏大統領ら外国からの主張を「内政干渉」と批判してきた。ただし、環境意識が高まる欧州諸国や投資家の中には、ブラジルへの投資を見送る動きも出ており、アマゾン政策の見直しを迫られていた。そこに出てきたのが、米大統領選挙で気候変動枠組条約を制定したパリ協定への復帰を公約したバイデン氏で、環境問題を外交政策の最優先課題の一つとして掲げている。
しかし、農牧業団体を岩盤支持層に持つボルソナロ氏にとって、アマゾン政策の転換は簡単ではない。アマゾン周辺では2000万人が生活しており、地域経済は熱帯雨林と密接に結びついている。
また、ブラジルは世界2位の牛肉輸出国でもあり、牛肉は外資を獲得する重要な輸出品でもある。中国の対オーストラリア制裁を背景に中国への牛肉輸出は一大ブームとなっている。「作れば売れる」牛肉輸出ブームの中で森林保護を行うには、消費する国々の協力も欠かせない。
ボルソナロ氏は経済開発で強硬な発言が注目されがちだが、実利的な一面もあり、畜産物や鉱物と共に森林保護を求めてくる国際社会に外交的な見返りを求める可能性もある。
(サンパウロ・綾村 悟)