欧米の支援不可欠な香港民主派
香港では国家安全維持法(国安法)の施行に伴い、政治的な締め付けが強まったことで一部の急進民主派は海外に逃れ、特に旧宗主国・英国で移民受け入れや欧米からの支援を取り付ける動きが加速している。香港の自決権を求める香港衆志(デモシスト)の元メンバー、羅冠聡氏や立法会議員を辞任した許智峯氏は英国を拠点に香港民主化運動の根を張り、中国当局は動向を警戒している。
(深川耕治)
中国 羅冠聡氏らの動向警戒
香港から英国へ移民加速も
9日、英国のパテル内相は香港衆志の元代表で7月から香港を出境してロンドンに滞在している羅冠聡氏と会談した。羅氏は今年のノーベル平和賞候補の一人にまでノミネートされ、国際的な関心度は決して低くない。
これまで記者(深川)は羅氏に3度、単独インタビューを行ったが、2019年、米エール大に留学前から「中国当局が民主化を阻害する強力な法律を香港で適用するケースを見越して、民主化運動を香港の外から展開する必要がある」と語っていた。
会談にはロンドン市長選の保守党候補ショーン・ベイリー氏や国安法違反で逮捕されて保釈中に台湾への密航を図って中国海警局に逮捕された李宇軒氏の妹(英国在住)、急進民主派の香港監察メンバーも同席。パテル内相は「英国は香港人と同一戦線に立ち、香港市民の自由を守ることを支持する」と語り、一国二制度による高度な自治を順守するとした英中共同声明を破っている中国、香港当局のあり方を問題視した。
一方、香港政府は英国旗と香港特別行政区旗をバックに記念撮影したことに「香港の反政府勢力との会談に英国が香港特区旗を掲げた」と強く抗議し、応酬が続く。羅氏は香港警察に国家安全維持法違反の容疑で指名手配されている。
羅氏は16日、米上院の公聴会にオンラインで参加。海外の香港人の在留手続き迅速化を通じて国安法による迫害に直面する在米香港人の保護を目的とする香港自由選択法案の大統領早期署名を求め、米政権移行期の微妙な時期に中国へのさらなる圧力を訴えた。
11月12日に立法会(議会)議員を辞任した15人の民主派議員の1人、元・民主党の許智峯氏は3日、訪問先のデンマークで両親や妻子と共に政治亡命したことを表明。今月に入り、ロンドン入りし、羅氏と合流。欧州での香港民主派連携の拠点としたい構えだ。
厳しい政治的な抑圧、言論弾圧に対して香港市民の海外への移民、移住の関心は急速に高まっている。英国在住の香港人組織「英国港僑協会(HKB)」の調査結果によると、今後2年間で60万人以上の香港人が英国に移民する可能性があり、英国が香港返還前に発行した英国海外市民(BNO)旅券の保有者は年末に73万3000人に達する見込み。いつでも英国移住で利用可能なように旅券更新手続きをする人が急増したことが要因だ。
羅氏らの英国での活動は香港からの移民の政治活動を下支えする受け皿、基盤づくりと見ている中国政府は、英国での諜報活動で警戒を緩めない。
同協会の調査結果(9月)によると、英国への移民を希望している香港人315人(16~60歳、平均37歳)のうち、88%が2年以内に移民することを希望し、移民希望の理由は国安法が市民の安全を脅かしていると感じている人が96%だったとしている。さらに14%が二度と香港には戻らないと回答。回答した人の71%が大卒で74%が正社員との分析から見ても、香港返還前の香港市民の移民ブームを超える動きとなりそうだ。
香港政府も、「中英共同声明で英国はBNOパスポートを所持する香港市民に英国居住権を与えないと承諾した約束を反故にするなら、歴史的事実を顧みない国際義務違反だ」と非難。中国側が一国二制度を骨抜きにする国安法施行をしたことへの対応まで棚上げして意趣返しする。
香港では香港衆志の核心メンバーである周庭氏、黄之鋒氏らに続き、民主派の大物として知られる香港紙「蘋果(ひんか)日報」創業者の黎智英氏も収監。国際的、政治的に影響力のある人物の言動をピンポイントで押さえ込もうとしている。民主派支持の香港市民を恫喝(どうかつ)する手法に、司法専門家からも行き過ぎとの見方が出ている。

と会談する羅冠聡氏(左端から2人目)=羅冠聡氏のフェイスブックより-300x211.jpg)




