イスラエルとモロッコが国交合意

米、西サハラへの主権容認

 トランプ米大統領は10日、イスラエルとモロッコが国交正常化に合意したことを発表した。トランプ政権が仲介したイスラエルとアラブ諸国の国交正常化合意は、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンに続いて4カ国目となる。米国は合意の一環として、領有権争いが続く西サハラ地域におけるモロッコの主権を認めることに同意し、対イラン包囲網に取り込んだようだ。(エルサレム・森田貴裕)

イラン包囲網に取込みへ

 イランを脅威と見なしているモロッコは、イランがレバノンのシーア派武装組織ヒズボラを介して、西サハラ地域をめぐって対立する独立派武装組織「ポリサリオ戦線」に軍事的支援を行っているとし、2018年にイランとの国交を断絶している。

西サハラ

 

 トランプ氏はツイッターで、「われわれの友であるイスラエルとモロッコが国交正常化に合意したことは、中東の平和に向けた大きな進展だ」と述べた。

 合意には、外交関係の回復のため、イスラエルの都市テルアビブとモロッコの首都ラバトの連絡事務所の再開、最終的には大使館開設が含まれている。また、両国間の直行便を就航させるという。

 イスラエルとモロッコの間には、歴史的に一定の関係が続いてきた。1948年のイスラエル建国に伴い、モロッコに住んでいた多くのユダヤ人はイスラエルへ移住していった。93年のイスラエルとパレスチナの和平合意(オスロ合意)を受け、94年には、モロッコの首都ラバトとイスラエルの都市テルアビブに、両国の連絡事務所が設置された。2000年に第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)が勃発し、モロッコ国民の間で反イスラエル感情が高まったため、モロッコはテルアビブの連絡事務所を閉鎖したが、その後も制限された中で両国の貿易は続いた。

 イスラエルのネタニヤフ首相は10日、エルサレム旧市街のユダヤ教聖地「嘆きの壁(西の壁)」で行われたハヌカ祭のキャンドルライト式典で、モロッコとの国交正常化を「平和を築く歴史的な決定だ」「トランプ大統領の並外れた努力に感謝する」と述べた。また、モロッコ国王のモハメド6世に謝意を表明し、「モロッコとイスラエルには、互いに愛と尊敬の伝統が基盤にあり、非常に温かい平和が築かれるだろう」と語った。

西サハラのモーリタニア境界付近で、炎上しているポリサリオ戦線のテント=11月13日にモロッコ軍がフェイスブックで公開(AFP時事)

西サハラのモーリタニア境界付近で、炎上しているポリサリオ戦線のテント=11月13日にモロッコ軍がフェイスブックで公開(AFP時事)

 モロッコ国王のモハメド6世は10日、西サハラ地域におけるモロッコの主権を認めた米国の姿勢に謝意を表明した。一方、対立するポリサリオ戦線は、紛争解決への努力を妨げるとして強く反発した。

 水産資源と鉱物資源が豊富な西サハラ地域は、旧宗主国スペインが1976年に撤退して以降、モロッコが全土の8割近くを実効支配しているが、独立を目指すポリサリオ戦線との衝突が起きるなど紛争が続いている。国際社会はモロッコの主権を認めていない。

 西サハラ地域に関しては、アフリカ諸国やアラブ諸国の8カ国が最大の都市ラーユーンに領事館開設を発表しており、米国や他の7カ国も港湾都市ダフラに開設を決定した。イスラエルもこれに加わる可能性は高い。

 パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスやパレスチナのイスラム聖戦などは、イスラエルとの国交正常化を決定したモロッコを強く非難する声明を出した。一方、パレスチナ自治政府はイスラエルとモロッコの合意については沈黙している。

 イスラエル紙イディオト・アハロノト(電子版)が13日にイスラエル当局筋の話として報じたところによると、サウジアラビアは、イスラエルとの関係正常化に踏み出す前に、より多くの国がイスラエルとの関係正常化に動くことを望んでいるという。

 アフリカではニジェール、マリ、ジブチ、モーリタニア、コモロ諸島、アジアではインドネシア、パキスタン、ブルネイ、バングラデシュ、モルディブがイスラエルとの関係正常化の合意に向けた協議を行っているという。次にイスラエルとの関係正常化を発表する国は、湾岸アラブ諸国のオマーンになる可能性が高いという。

 米政権が目指す対イラン包囲網の構築に向け、本命のサウジがイスラエルとの関係正常化に踏み出す可能性が高まっている。