危機感の欠けた国会審議 新たな段階の脅威に対処を
北朝鮮の弾道ミサイル
前半国会は、文部科学省の天下りや陸上自衛隊の日報、そして森友学園問題に質疑が集中して肝心要の外交・安保の議論が等閑に付されてしまった。特に参院では森友学園問題ばかりが連日取り上げられ、徒(いたず)らに会期を空費してしまったことはまことに残念である。
同学園の問題などは畢竟(ひっきょう)するに、『孟子』にある「東郭(とうかく)墦間(はんかん)の余食を乞うてその妻妾(さいしょう)に驕(おご)る」(墓場で物乞いをしながら、妻妾には権門や名士と陪食したと偽り自慢する)ような、平素の行跡好ましからぬ似非(えせ)教育者たる人物に天真な首相夫人がまんまと利用されたということではないのか。それとも「呑舟の魚」(本当の悪人)が他にいるというのなら具体的な証拠を挙げて追及すべきであろう。
野党は後半国会でも引き続き本問題で政府を追い詰める構えであるが、この蛙鳴(あめい)◆(「虫へん」に「單」)噪(せんそう)、我が国を取り巻く情勢が如何に剣呑(けんのん)な事態へと推移しているかを知らないのであろうか。
北朝鮮は先月6日に弾道ミサイル4発を同時発射し、3発が日本の排他的経済水域内に、1発がその手前に落下した。発射されたミサイルはスカッドER(射程約1000キロメートル)かノドン(同約1300キロメートル)とみられ、この発射は在日米軍基地を攻撃する部隊の訓練だと発表したのである。
射程内には横田、横須賀、岩国、佐世保などの主要な在日米軍基地が入っており、北朝鮮はスカッドを約400発、ノドンを約300発も実戦配備しているという。これらのミサイルは発射されればわずか約10分で我が日本の領土に着弾する。さらに、5日にも北朝鮮は弾道ミサイル1発を発射した。北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったことは間違いのない事実なのだ。
一連のミサイル発射を受けてトランプ政権は対北朝鮮政策の見直しをさらに加速している。ティラーソン国務長官は「戦略的忍耐は終わった。すべての選択肢はテーブルの上にある。北朝鮮が兵器開発計画の脅威を我々が行動をする必要があると考えるレベルまで高めるなら軍事オプションを検討する」と述べた。その中には北朝鮮のミサイル基地に対する先制攻撃やサイバー攻撃、韓国への戦術核兵器の再配備などの検討が含まれているという。
米国の大統領は共和・民主党に拘わらず、攻撃を受けたり、攻撃が差し迫っている時にはいつでも、米国民や国益を守るために必要なら軍事力の行使も辞さないのが常である。ブッシュ大統領などは「大量破壊兵器の保有や使用を企てる国に対する攻撃は自衛権行使に当たり、先制攻撃も辞さない」としてイラク侵攻に踏み切った。米国はこのような好戦性を秘めた国であることはその歴史を見ても明らかである。
米が先制攻撃の可能性
報道によれば、トランプ大統領は「中国が北朝鮮問題を解決しないのなら我々が行う」と述べ、北朝鮮に対する軍事攻撃の可能性を示唆した。また米下院で北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定する法案が可決し、上院での審議が行われる。テロ支援国家と指定されれば、自衛権の行使として先制攻撃を行う可能性も否定できない。
もしも米朝が干戈(かんか)を交えることになれば、北朝鮮から大量の弾道ミサイルが撃ち込まれる。武力攻撃に際して、国民の生命を如何に守るのか。日本には核シェルターもなく、どこに避難すればよいのか。有事の避難施設もなければ、訓練も行われていないのだ。今国会ではもっと重要な議論があって然(しか)る可(べ)きだ。政治家の危機感の欠如が嘆かわしい。