沖縄県南城市の久高島に野菜工場の建設を計画
沖縄離島活性化推進事業を活用
「神々の島」として知られる沖縄県南城市の久高島に産業振興の起爆剤として野菜工場を造る計画が進められている。沖縄離島活性化推進事業の補助金を用いるものだ。ところが、一部メディアが疑惑ありきの報道をしたことにより、一度は暗礁に乗り上げたが、久高島は18日、臨時住民総会を開き、全会一致で事業を推進することを決めた。(那覇支局・豊田 剛)
地元TV報道で一時混乱、島民総意で「継承」求める
「久高島の植物工場は辞める事にしました」(原文のまま)
古謝景春南城市長は10日、自身のフェイスブック上で計画の撤回を宣言した。9日に放映された地元の民放テレビ局のニュース番組に登場した島の中心的人物が、「事業の透明性に疑問を持たれかねない」と述べたからだ。受注者選定に際し、市が「特定事業者ありき」で、あたかも利害関係で選考をしたかのように受け止められかねない発言だった。そのため、市長は「利害関係大嫌い、(久高島)区長と内閣府と調整して事業を辞めると決めました。島に行って沈静化します」(原文のまま)と書き込んだ。
植物工場の総事業費は2億3000万円。4月18日付で1億4800万円の交付が決定している。植物工場は台風や日照りなど、気候の影響を受けやすい沖縄の農業にとっては願ってもないプロジェクトだ。当面はレタス栽培が中心となり、少なくとも7人の雇用が見込める。
人口約300人の久高島は、ピーク時の人口から半減した。農業、観光、主に不登校児を受け入れる「久高島留学センター」を除くと目立った雇用の場がない島にとっては朗報だった。
市は、2013年から植物工場の実証実験をし、独自で事業拡大を図っている地元企業と協働で提案事業に応募。官民一体の協働事業として内閣府も承認している。「事業を進めるに当たり、市外、県外の業者は地域事情が分からず、採算が合わなければいなくなることもあり得る」(古謝市長)ことから、市内の業者を中心に事業者選定した。
ところがネックとなったのが、久高島特有の「土地憲章」だ。決まりでは、島外の民間事業者による施設整備が認められていない。そのため、4月に開催された島内の住民総会で計画は一度、否決された。しかし、島からの強い要望があったため、市は事業主体を市に変更し、野菜工場を民間業者に貸し出す形態に変更したところ、5月7日の総会で約9割の賛成で了承された。
15日には久高島民20人が傍聴する中、市議会が開かれた。
照喜名智市議は「今回の(民放テレビニュースによる9日の)報道により、事業を阻止しかねない、あらぬ方向に行かないか心配だ。官民一体で進めて承認されたにもかかわらず、『特定事業者ありき』と報道された」ことに違和感を示した上で、担当者に事業の概要と経緯の説明を求めた。
これを受けて屋我弘明農林水産部長は、「沖縄離島活性化推進事業は農林水産業に先導的な事業」と述べるとともに、「台風など災害に強く、生産される野菜は高品質の付加価値化により普及促進が図られ、安定供給により農業の振興が期待される」と説明した。
南城市が合併する前の旧知念村企画部長時代から、古謝市長は島の活性化について情報のアンテナを広げてきた。そして、植物工場は採算ベースに乗らないと言われた中、12年に実証実験をし、地元企業が持つ販売網を利用すれば事業化は可能であると確信したのだ。
古謝市長は議会答弁で「島民の総意であれば土地憲章もクリアできる。ところが報道のためにごちゃごちゃになった」と述べた上で、「島民が一丸になって合意でき、頑張ることが確認できればやりたい」と涙ながらに決意を表明した。
久高島の西銘正博区長は18日、古謝市長の同席の下、臨時住民総会を開き、全会一致で事業を推進することを決定。市に事業を継承するよう改めて要請した。
古謝市長は本紙の取材に対し、「テレビで発言した人物が後になって、『誤解だった』『事業を止めないでください』と陳謝してきた」ことを明らかにした。報道については「久高島民も抗議しており、テレビ局には訂正と説明責任も求めたい」と語った。
「久高島土地憲章」前文
久高島の土地は、国有地などの一部を除いて、従来字久高の総有に属し、字民はこれら父祖伝来の土地について使用収益の権利を享有して現在に至っている。字はこの慣行を基本的に維持しつつ、良好な自然環境や集落景観の保持と、土地の公正かつ適切な利用・管理との両立を目指すものである。(昭和63年12月3日施行)