九州・沖縄で自衛隊が大規模統合運用演習を実施
対処能力向上が目的、南西諸島有事や災害にも対応
陸上自衛隊西部方面隊(小川清史陸将)は10月10日から11月11日まで、「鎮西」と呼ばれる統合運用訓練を実施している。対処能力向上を図るのが目的で、南西諸島における他国の不穏な動きや震災にも対応できるよう確認した。(那覇支局・豊田 剛)
那覇駐屯地では補給、救命訓練を公開
物資輸送拠点が課題に、民間組織との連携も不可欠
鎮西は西部方面隊が定期的に実施している国内最大規模の実働演習で2010年に始まった。有事や災害時など多様な事態における対処能力の向上を図り、即応態勢を保持するのが目的で、海自と空自も参加する。
今年で7回目を迎える。中国を名指しこそしないが、南西諸島における不測の事態への対処を念頭に、2年前から奄美大島と種子島でも展開している。
訓練場所は九州・沖縄地方で、参加人員は約1万8000人で過去最多となった。車両は約4000両、航空機は約70機が動員された。
今年に入り、石垣市の尖閣諸島周辺だけでなく、奄美群島近海にも中国の艦船が領海侵犯しており、日本側が適切な対応を取ることが求められる。
訓練には、陸上自衛隊の最精鋭部隊でゲリラや特殊部隊による攻撃に対処し、「陸自の海兵隊」とも呼ばれる中央即応集団も参加。北海道旭川を拠点とする第2師団、東北南3県をつかさどる第6師団なども参加した。
今回は沖縄本島の那覇駐屯地に加え、奄美大島、種子島、日出生台演習場(大分県)での訓練が報道公開された。そのうち、那覇駐屯地における訓練では、補給・整備、医療拠点が報道陣に公開された。
「砲弾で飛散した破片が体に直撃。顔と足を損傷した患者が搬入されます」
有事の現場から連絡を受けて10分後、患者が那覇駐屯地内の那覇病院に隣接する野外医療拠点に運ばれると、医師と救命士、看護婦のチームは気道確保と頸椎(けいつい)保護、呼吸確認、循環蘇生と止血、中枢神経障害有無の確認、脱衣と体温管理といった、応急処置に必要な五つのアプローチを施した。
医療拠点の訓練を率いた西部方面衛生隊の奥西由和第3課長は、「救急治療は時間との勝負になる。約6人が1チームとなり、搬送から15分以内に緊急外科手術を行うことを徹底している」と話した。
既存の那覇病院の機能を増強し、屋外の仮設医療拠点との連携も確認した。訓練ではさまざまな症例の患者が運ばれる。複数の患者が一度に運ばれた際、優先順位をどうするかなど、難しい判断を迫られる場面も想定している。
補給・整備の訓練は西部方面隊後方支援隊の石丸威司隊長が率いた。熊本地震や東日本大震災では、全国から自衛隊の部隊が集まり復旧活動をした。組織を超えた補給活動の連携が重要となっている。
民間貨物船で北は北海道から南は九州まで全国から集められた物資を那覇港、米軍那覇軍港などで受け取り、輸送隊の車両を使って那覇駐屯地と陸上自衛隊沖縄訓練所(沖縄市)に分散して保管。陸自15旅団(那覇)への引き渡しや、引き揚げる際に各地に送り返す訓練をしている。
また、車両や発電機など必要な装備品を整備・修復する作業も行われている。
石丸氏は「必要最低限の生活、ライフラインを保障する物資が送られる際、人口が密集している沖縄本島中南部では、こうした物をどこに置くかが課題になる」と話す。自衛隊駐屯地、米軍施設、港湾など活用できる場所を確保するよう、自治体と協力して調整することが急務だ。
陸自の広報担当者によると、奄美では全国の地対艦ミサイルを集めて演習した。また、敵の上陸侵攻を阻止するため、海上の水際に地雷原を構築する水際障害訓練も行ったという。
防衛・防災では地元の理解は不可欠だ。奄美大島や種子島の鎮西訓練では民間の土地を利用した。住民の理解を得られたからこそ可能になった。
「日ごろから民間組織と連携をして顔つなぎをしておけば、いざという時に成果を発揮できる」と石丸氏は話す。