沖縄の選挙報道にみる偏向
沖縄在住フリージャーナリスト 江崎 孝
新聞の使命、メディアの役割について考える時、歯止めのきかない言論の自由がいかに日本の民主主義を破壊させるか、昨年の沖縄県知事選と衆議院選でみせた地元メディアの実態を紹介し、検証してみたい。
昨年11月16日の沖縄知事選で、仲井真弘多氏は対立候補の翁長雄志氏の当確の報道を知った瞬間、「マスコミにやられた」と呟(つぶや)いた。仲井真氏は、自身が敗北した相手は対立候補の翁長ではなく、マスコミであると認識したのだ。
今回の県知事選ほどメディアの不公正な報道が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)した選挙を筆者は寡聞にして知らない。特定の候補を支援するがあまり、有権者の判断の基礎となる情報を隠蔽したり、争点の文言を意図的に歪曲(わいきょく)して有権者を混乱させるなど、新聞の不公正な報道は枚挙に暇(いとま)がないほどだった。
知事選の熱気が覚めやらぬ11月20日、自民党は沖縄知事選でマスコミに敗北した轍を避けるつもりなのか、衆院選期間中の報道の公平性確保に配慮する文書を在京テレビ各局に配布した。要請文は、「公平・公正に報道しておれば何の痛痒(つうよう)も感じられない」と安倍首相が指摘する通り、当然の内容だった。
ところが、沖縄2大紙が激しく反発した。琉球新報は11月30日付社説で「前代未聞だ。許し難い蛮行と言わざるを得ない」などと反論し、沖縄タイムスは12月12日の記事で、「衆院選、報道現場で萎縮ムード ジャーナリストら危機訴え」と報じた。要請文の配布先は放送法が政治的公正を求めるテレビ局に限っており、新聞各社は要請の対象外のはずだ。
にもかかわらず放送法の対象外の沖縄2大紙が反発した理由は、知事選で「不公平・不公正な報道」をした自覚があるからに他ならない。両紙は、仲井真県知事(当時)をして「(沖縄2紙は)特定の団体のコマーシャル・ペーパーだから購読しない」と言わしめるほど不公正な報道に徹していた。
ここで、これまで新聞報道ではタブーといわれる未踏の分野である「選挙と新聞報道」に触れておきたい。放送法の縛りのあるテレビ・メディアはともかく、新聞メディアが憲法で保障された言論の自由を盾に、今回の沖縄知事選の選挙報道のようにやりたい放題の「不平・不公正な報道」をするのが許されるのか。3権分立に立脚する民主主義が、第4の権力といわれるメディアの不公正な報道に蹂躙(じゅうりん)されたら民主主義が崩壊するのはいうまでもない。
一方、新聞は民主主義が保障される社会だからこそ、言論の自由を謳歌(おうか)できる。
しかし、今回の沖縄知事選で、新聞の不公正な報道により「民意」が作られ、選挙の結果に大きな影響を与えた状況を目の当たりにして愕然(がくぜん)とした。新聞が公正であるべき選挙を支配し、民主主義を破壊したと感じたからだ。
インターネットの登場で変革を余儀なくされる新聞の役割を考えるとき選挙報道に限っていえば、新聞が民意を反映することはあっても、新聞が民意を作ってはいけない、と考える。選挙報道における「言論の自由」が民主主義を破壊し、結果的に「言論の自由」をも奪う可能性があるからだ。