地域資源の共同開発に期待 沖縄高専、創立10周年迎えシンポ

 国立沖縄工業高等専門学校(沖縄高専)は今年で創立10周年を迎えた。数々の大会で全国優勝を果たし、これまで優秀な人材を全国に輩出した。しかし、沖縄県内に就職する人は少なく、地元にいかに還元していけるかが課題となっている。 
(豊田 剛)

地元就職者少ないのが課題

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沖縄高専創立10周年記念のシンポジウムで登壇した伊東繁校長(中央)、稲嶺進名護市長(右)ら=9月12日、名護市民会館で

 米海兵隊の普天間飛行場(宜野湾市)の移設先として2002年10月1日、日米両政府が合意したキャンプ・シュワブに近い名護市辺野古に国立沖縄高専がある。全国55番目の国立高専として開校。機械システム工学科、情報通信システム工学科、メディア情報工学科、生物資源工学科、全4学科が設立された。その2年後に第1回入学式が行われ、175人が入学。2009年に初めて卒業生を輩出した。

 主な実績としては、全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)で優勝。全国高等学校パソコンコンクール(パソコン甲子園)では3部門のうち2部門でグランプリに輝いたことがある。また、今年8月には、高校生バイオサミットで最高賞の農林水産大臣賞を受賞した。

 2010年から第2代校長を務める伊東繁氏(元熊本大教授)は9月12日に名護市民会館で開催された記念シンポジウムで、「『沖縄に高専を作ってほしい』という産業界からの要望は本土復帰の頃までさかのぼる」と振り返った。人材の確保が大きなネックとなり、なかなか実現しなかったが1997年、県側から具体的な誘致活動が始まったという。

 伊東氏は、「高専は未来の技術者、科学者を育成するところ。手や体を動かし体験しながら技術者を育てる、すなわち、ものづくりの即戦力を養成するところだ」と説明。創立から間もなく、目に見える形で結果を出していることを誇った。

 今後は、「次の10年は、産業界、行政と沖縄高専が連携し、沖縄の発展のために汗を流していく時代にしたい」と意欲を表明。「地域連携を深め、やんばる(沖縄本島北部)や沖縄がどのように変わったのか答えを出したい」と述べた。

 ただ、現実には県内に就職する卒業生は約1割にとどまっているにすぎない。沖縄県は第2次産業の割合が少なく、大手志向の強い学生が県外に流れているのだ。こうした状況を憂慮した高専は近年、地域との連携を重視。伊東校長は「北部地域の知の拠点として人材育成と社会貢献に尽力したい」と意気込む。

 昨年2月、名護市街地に「サイエンスランド」を設置。いつでも科学や技術に触れられ、楽しめる場所として地元の小中高生らが活用している。科学教育の普及に向けてアイデアを出し合う大人向けのイベント、「大人のサイエンスランド」も開催した。

 記念シンポジウムでは、沖縄高専地域連携推進センター長の伊東昌章教授、名護市の稲嶺進市長、農業生産法人有限会社勝山シークワーサーの山川良勝社長、県情報産業協会の仲里朝勝会長がパネリストとして登壇。地元との連携の仕方について話し合った。

 伊東昌章教授は、「高専の学生が沖縄で就職するには、学生と企業の距離感を縮める必要がある。そのために、インターンシップ(就業体験実習)を全学生に2週間経験させている」と説明。昨年度、地元企業との共同研究は19件に及んだという。

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名護市辺野古にある沖縄高専のキャンパス

 稲嶺市長は、「名護市には大企業は少ないが、何かを始めたいと思う人がたくさんいる。共同開発という形で高専の知識やノウハウを生かすことで道が開ける」と述べ、共同開発に期待を示した。

 共同開発の成功例の一つが、沖縄特有の野生柑橘であるシークワーサーを加工販売する勝山シークワーサーだ。高専との共同研究が県産業振興公社の地域資源活用支援事業に採択され、現在、機能性化粧品素材の開発を進めている。また、生物資源工学科の研究グループが、普段使われないシークワーサーの種子から化粧品をつくる研究成果をまとめ、全国規模の大会で入選した。

 山川氏は、「やんばる地方には研究できる資源、素材はいくらでもある。これを開発、事業展開するのは零細企業には難しい」と述べ、高専とのコーディネーターの役割を果たす部署の設立を名護市に求めた。

 仲里会長は、沖縄県の成長戦略である「沖縄県21世紀ビジョン」の中で、「情報通信関連産業は沖縄経済の成長エンジンとしての役割が期待されている」とある。沖縄がアジア特有の国際情報ハブとなるためには、通信研究や開発技術の人材が必要で、高専の卒業生に期待を示した。