孔子廟訴訟、那覇市の違憲状態の解消は困難
儒教の祖・孔子をまつる久米至聖(しせい)廟(びょう)(以下、孔子廟)の用地を那覇市が無償提供することは違憲かを争う住民訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)はこのほど、宗教的活動の援助にあたり違憲だと判断した。今後、那覇市がどう違憲状態を解消するか注目される。(沖縄支局・豊田 剛)
那覇市の「中国志向」を問題視した原告の金城テルさん
「7年という長い歳月をかけ、勝訴の結果が出て、感激の涙がこぼれた」。那覇市内で会見した原告の金城テル(戸籍名・照子)さんは喜んだ。2014年、当時の翁長雄志市長が孔子廟の移転に特別な配慮をした上、同廟の目と鼻の先に中国福建省との友好という名目で巨額を投じて龍柱を建築する計画まであることについて、「今の那覇市は中国を向いているのではないか」と問題提起。中国による尖閣諸島への領海・領空侵犯が繰り返されていることを踏まえ、那覇市の動きが「中国に間違ったメッセージを与えかねない」として、訴訟を決意した。
孔子廟のうち大成殿と明倫堂は2013年、もともとあった那覇市若狭から松山公園に移設された。運営するのは福建省から移住した子孫らで構成される久米崇聖(そうせい)会。若狭から約500㍍ほどの場所にある郵便局と国税事務所跡地に移転した。敷地面積は1335平方㍍。那覇市は公共性があるという理由で年間約576万円もの使用料を免除した。
最高裁判決は市が主張する孔子廟の公益性を認めず
判決は「一般人から見て市が特定の宗教に特別の便宜を提供していると評価されてもやむを得ない」「廟の観光資源としての価値を考慮しても、全額免除は合理性を欠く」と指摘。その上で、「仮に宗教性のある施設であっても、歴史的価値や観光資源、国際親善、地域の親睦の場としての意義があれば無償提供することがあり得る」と付け加えた。
「至聖廟は江戸幕府の文教施策によって、各藩校などの教育機関として建設され、東京都湯島聖堂(中略)などが建てられており、さまざまな学問の場として孔子の教えや儒学をはじめとする東洋の学術文化を世の中に伝えている」
那覇市はこう指摘した上で、孔子廟は久米村(現在の那覇市の一部)の人々を中心に親しまれており、「地域に開かれた施設」であると主張してきたが、最高裁判決は孔子廟の公益性を認めなかった。
原告代理人・徳永氏「孔子廟は沖縄の伝統とは言い難い」
原告代理人の徳永信一弁護士は「孔子廟は明の時代に琉球に渡来した子孫らが守り続けてきたもので、沖縄で一般的に知られておらず、沖縄の伝統として広めるのは無理がある」と指摘した。金城さんは「那覇市民の私にとって、一切馴染(なじ)みがないものだった」とし、7年前、住民監査請求に踏み切った。
久米崇聖会は「久米三十六姓というさまざまな家系の中国からの渡来人たちの末裔(まつえい)が構成する血縁集団(門中)の緩やかな連合体」(判決文抜粋)であり、女人禁制。公益性があると主張した明倫堂は、歴史や儒教文化について学ぶ公開講座「久米孔子塾」が開催されることになっているが、ここ数年はほとんど行われていないのが実態だ。
孔子廟の無償提供について移設当初から問題視してきた評論家の篠原章氏は、「久米至聖廟が三十六姓以外にもたらした価値は何もない」と言い切る。その上で、「より公益性があるのは首里孔子廟だ」と指摘する。久米人の孔子廟独占を嫌った琉球王府が国学(大学)を開校した際、首里城内に孔子廟を造営し、その跡地は首里城の隣接する沖縄県立芸大の敷地にある。「王府が首里孔子廟をつくったのは、久米人の閉鎖性と学問独占に対する対抗措置だった」(篠原氏)
徳永氏は「沖縄には、他にも特定団体や組織・個人に特別配慮した似たようなケースはあるのではないか」と指摘。「ともに翁長氏の後継者である城間幹子那覇市長と玉城デニー知事は、孔子廟をめぐる一連の不正、不適切な行政行為を我がことと受け止め、身を律して行政に臨むべきだ」と篠原氏は訴える。
判決に従い有償で貸し出しても、契約違反・法令違反に
大法廷が違法とした、2014年4~7月の使用料約181万円を含む使用料は、竣工(しゅんこう)した13年6月からの約7年半分を単純計算すると4000万円を超える。最高裁判決に従って那覇市は久米崇聖会に対して所定の賃料を請求しなければならない。
城間市長は記者会見で、「個人的な感覚としては多少違和感がある。どの部分が違憲と捉えられたのか、判決の詳細を見極めたい」と述べた。
ただ、孔子廟のある松山公園の土地は、国有地と市が国から譲渡されたもので、国との契約で第三者に有償で貸し出せない規定になっている。つまり、市は久米崇聖会に無償で貸さなければ契約違反・法令違反になる。那覇市はどう対応しても違法状態が続く状況の中で、違憲状態をいかに解消するのか。
= メ モ =
那覇孔子廟訴訟の経緯
2014年5月 無償提供の違法確認などを求めて那覇地裁に提訴
16年11月 地裁は原告の訴えを却下
18年4月 審理を差し戻しの二審(福岡高裁那覇支部)で住民側が逆転勝訴
21年2月 最高裁大法廷が無償提供を違憲と判断












