「解散」叫べぬ野党紙 北方領土交渉に批判だけ

二階氏の言葉借りた「赤旗」

「解散」叫べぬ野党紙 北方領土交渉に批判だけ

日露首脳会談の冒頭であいさつする安倍晋三首相(右)。左はロシアのプーチン大統領=16日午後、首相官邸

 年末を迎えた。与党側から解散風が吹き一時期「年末解散」の臆測も流れた一方、野党の機関紙には今年も解散を求める見出しが躍らなかった。

 民主党政権時代に野党の自民・公明両党は、「政権奪還」のため衆院解散を訴えた。これが機関紙の「自由民主」や「公明新聞」に載った。民進党の前身・民主党の機関紙「プレス民主」も2007年参院選で当時の自公与党が負けて参院で少数になると、次は衆院解散を要求して「政権交代」を唱える記事が連続した。

 無論、野党が訴えても解散は首相の専権であり遠吠えに終わる。しかし、07~12年にかけて攻守所を変えながらも、機関紙で野党が解散要求のキャンペーンを始めると、やがて小選挙区制度の下に政権交代は実現した。

 今の野党の状況はどうか。民進党の「民進プレス」12月6日号1面には枝野幸男党憲法調査会長インタビューが載るが、首相の解散権は「王権の名残」だとして制限しようとしている。「憲法の条文には、7条3号に『衆議院を解散すること』としか書いてありません。……条文をきちんと見直し、これを制限する時代ではないか」と述べ、「内閣不信任案が可決した時しか衆院は解散できない」と書き込む提案をした。一つの議論ではある。

 が、そうなれば、かつての野党のように国会論戦で「首相を解散に追い込む」と気勢を上げて早期衆院選を求められなくもなる。少数の野党は内閣不信任案を普通は成立させることができない。だから論戦で世論に訴え「信を問え」と攻勢を掛けようとしてきた。その勢いが今ない。

 こうなると、反転攻勢の機会はうかがえない。安倍晋三首相が肝煎りで進めたプーチン大統領との日露首脳会談がそれだ。冒頭に触れた「年末解散」説は同会談での成果を見込んで観測されていた。

 が、結果は領土問題が動かず、共同通信の世論調査で54・3%が評価せず、首相の支持率は5・9ポイント落ちた。北方領土返還は全政党が要求してきたのであり、野党の立場なら税金3000億円の対露経済協力を先行させてよいものか、信を問うため解散を訴えても不自然ではない。逆に野党が「年末解散」を要求してもいいはずだ。手本は民主党政権時代の野党・自民党である。何度も領土・外交問題を批判して解散総選挙を要求した。

 日露首脳会談後の22日までに発行された野党機関紙は共産党の「しんぶん赤旗」だけだが、17日付1面に「領土問題進展なし」の見出しで報じ、志位和夫委員長の談話で批判した。同じ面に「国民の大半がっかり」の見出しで載るのは二階俊博自民党幹事長の発言で、「国民の大半はがっかりしていると、われわれも心に刻む必要がある」との言葉を借りている。

 が、これに民進党も含め批判する野党は、「ならば国民の信を問え」と二の句が継げない。一方、ロシア側は北方領土返還は議会や世論が反対だと息巻いてきた。この場合、野党のおとなしさは、必ずしも安倍首相の対露交渉に有利とは言えないだろう。

解説室長 窪田 伸雄