トランプ次期米大統領、外交・安保チームに軍人重用
トランプ次期米大統領が外交・安全保障チームに元軍幹部を積極的に登用している。文民統制(シビリアンコントロール)を危ぶむ声もあるが、米国では建国以来、元軍人が政府の要職に就くのは珍しいことではない。軍人というと一般的に好戦的なイメージがあるが、実際は戦争の悲惨な現実を知る立場から武力行使には慎重な傾向が強い。「米国第一」を掲げるトランプ氏は、不要な紛争に介入するのを避けるため、軍人の現実主義的な助言に期待しているとみられる。(ワシントン・早川俊行)
現実主義的助言を期待か
主要メディアの「軍事政権」批判は的外れ
トランプ氏は、選挙戦で同氏を熱烈に支持し、副大統領候補にも名前が挙がったマイケル・フリン元国防情報局長官(退役陸軍中将)を、外交・安保政策の司令塔となる国家安全保障担当大統領補佐官に指名。また、国防長官にはジェームズ・マティス元中央軍司令官(退役海兵隊大将)、国土安全保障長官にはジョン・ケリー前南方軍司令官(同)の起用をそれぞれ決めている。
中央情報局(CIA)長官に指名されたマイク・ポンペオ下院議員もウエストポイントの陸軍士官学校出身。キース・ケロッグ退役陸軍中将の国家安全保障会議(NSC)入りも発表されている。
国務長官は石油大手エクソンモービルのレックス・ティラーソン会長に決まったが、デービッド・ペトレアス前CIA長官(退役陸軍大将)の起用も真剣に検討された。
こうした「軍人重用」に対し、トランプ氏に批判的な主要メディアからは「政権の軍事化」(タイム誌)などと、文民統制の原則が揺らぐことに懸念が出ている。スペイン語で軍事政権を意味する「フンタ」と揶揄(やゆ)する声もあるほどだ。
だが、米国では歴史的に元軍人が政府の要職に就く事例は枚挙にいとまがない。そもそも、ジョージ・ワシントンは大陸軍総司令官として独立戦争を戦った後、初代大統領になった。第18代大統領ユリシーズ・グラントと第34代ドワイト・アイゼンハワーも、共に元陸軍大将だ。
近代でも、コリン・パウエル元陸軍大将が、現役時代にレーガン政権で国家安全保障担当大統領補佐官になり、退役後はブッシュ前政権で国務長官を務めた。オバマ大統領も就任時、国家安全保障担当大統領補佐官にジェームズ・ジョーンズ退役海兵隊大将、国家情報長官にデニス・ブレア退役海軍大将、退役軍人長官にエリック・シンセキ退役陸軍大将をそれぞれ起用している。
保守系シンクタンク、フーバー研究所のビクター・デービス・ハンソン上級研究員は、最近のコラムで、軍人重用をめぐるトランプ氏批判は「政治的に生み出されたヒステリーだ」と指摘。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も「心配する価値のない、いつものメディアの大騒ぎ」と断じている。
米国では「軍人イコール好戦的」というステレオタイプの見方はさほど強くないが、それでもリベラル勢力の間では、軍人重用が戦争の可能性を高めるとの懸念があることは確かだ。
だが、保守系誌ナショナル・レビューのリッチ・ローリー氏は「最高の将軍たちは軍事力の限界についてリアリスティックな傾向がある」と指摘。ブッシュ前政権で国土安全保障長官を務めたマイケル・チャートフ氏も、軍幹部は「武力行使に極めて慎重」だとWSJ紙に語っている。
国土安全保障長官に指名されたケリー氏は、同じ海兵隊の中尉だった息子をアフガニスタンで失った経験を持つ。軍幹部が武力行使に慎重なのは、兵士たちに甚大な犠牲を強いる戦争の悲惨さを直接、目の当たりにしてきたからだ。
トランプ氏は選挙戦でブッシュ前政権によるイラク戦争開戦を厳しく批判し、「米国第一」の観点から軍事力の行使は極めて慎重に判断すべきだとの立場を示してきた。トランプ氏の軍人重用は、彼らの現実主義的な助言を通じ、不要な紛争に介入するのを避けようとしていると読み取ることもできる。
また、軍幹部は軍事・国際問題に対する深い見識とともに、部隊や官僚機構を動かしてきた指導力・組織運営力も備える。トランプ氏はこうした有能な元軍人を活用しない手はないと考えているとみられる。
軍に懐疑的なリベラル勢力が占めたオバマ政権では、逆に行き過ぎたシビリアンコントロールにより、軍事知識のないホワイトハウススタッフが現場指揮官に細かく指示を出す「マイクロマネジメント」(ゲーツ元国防長官)が問題視された。軍の指揮系統を理解する元軍幹部が外交・安保チームの中枢を占めるトランプ政権では、こうした悪弊が改められることは間違いない。











