菅首相退任へ、政権1年で実績重ねたと強調

「自由民主」新総裁の下で衆院選の勝利に全力と奮起

菅首相退任へ、政権1年で実績重ねたと強調

自民党の地方組織幹部とのリモート対話の冒頭、あいさつする菅義偉首相=11日午後、東京・永田町の同党本部

 自民党総裁選が告示された。「9月17日告示・29日開票」の日程を決めた8月26日の党本部総裁選挙管理委員会の発表を機関紙「自由民主」(9・7、前週火曜発行)が報じた8月31日ごろ、9月衆院解散説が出回り、総裁選先送り説もあった。機関紙に政局は載らないものだが、二階俊博幹事長の交代など党4役の役員人事が6日に行われるとも言われていた。

 が、出馬表明していた菅義偉首相が解散も総裁選先送りも否定した上、3日には党臨時役員会に自ら出席して出馬を取り消した。新4役人事もなくなり、逆に首相が退任するという展開を同紙は「菅総裁『新型コロナ対策に専念』」「9月29日総裁選で新総裁を選出」(9・14)の見出しで事実を伝え、首相1年の実績を短く記した。

 「菅総裁は新たな総裁が選出されることに伴い、総理を退任することとなる。衆院議員の任期が残り約1カ月となる中、わが党は党員の総意で新たな総裁を選出し、新総裁の下で衆院総選挙の勝利に全力を挙げる」。数行のリード文に最大級の政治イベントが凝縮され、奮起を促している。

 菅首相は総裁選に進めば進めた。辞任ではなく次期に続投のチャンスを残しながら出馬しないケースはあまりない。似た例は大平正芳首相の急逝により後継となった鈴木善幸首相で、「党内融和のため」1982年11月の総裁選の約1カ月前に不出馬を表明した。菅首相もコロナ対策を不出馬の理由としながらも党のことを考えたであろう。

 「安心安全の大会」にするはずだった東京五輪・パラリンピックの時期に新型コロナウイルス変異株・デルタ株の感染が急拡大し、大会は無観客で乗り切ったが、国内では緊急事態宣言、新たに対象地域を拡大した同宣言や延期が相次いだ。海外の民主主義国でもコロナ禍は政権を直撃している。

 4月の衆参補選・再選挙は厳しい審判となり、7月の東京都議会選挙は伸び悩んだ。同紙は、「菅総裁は安倍晋三前総裁の後を受け、昨年9月に第26代総裁に選出された。政権発足直後から新型コロナウイルス感染防止対策に全力を挙げてきた」(9・14)と訴えている。ワクチン接種加速、デジタル庁設置、2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ実現宣言など功績を強調するが、政権浮揚に繋(つな)がらなかった。衆院選が近づくにつれ内閣支持率が低下したのは痛い。

 菅氏は、横浜市の小選挙区神奈川2区で常勝の強さを誇る。都市部だけに無党派層の動きに敏感と言われてきた。その菅氏も自民党が野党に転落した09年衆院選で次点の民主党候補に548票までに迫られた。

 菅首相の地元、横浜市長選について「自由民主」(8・24)は「おこのぎ候補が第一声/8月22日投開票」と、8月8日の横浜市長選告示日での小此木八郎候補応援記事を載せたが、落選の結果は扱っていない。それほど不都合に見える。同選挙で無党派層の4割が野党各党の支援で当選した山中竹春氏に向かった票の流れのままでは、09年の再来はともかく自民党議席大幅減のトレンドだ。

 野党・自民党で組織運動本部長だった菅氏は2012年の同紙の連載「激戦に勝利する」を担当し、「無党派層の目はごまかせません。“言うだけ”“形だけ”が見えてきた時点で信頼を失います」と指南している。コロナ対策と自身の選挙は両立できないという理由で、「総理の責務、やり遂げる」(見出し)として職を賭した「コロナ対策への専念」はその有言実行なのかもしれない。文字通りの「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」だ。

編集委員 窪田 伸雄