性的少数者と少子化

恋愛苦手な若者が増える

 LGBT問題を取り上げる上で、重要だと思われるのは少子化との関連だ。前述の論考で、田中和生は「最近の大学生を相手にしていて話題にしにくいのは、恋愛の話である」「恋愛は苦手だと口にする学生が増えてきたと感じる」と率直に述べている。最近の若者は、人間関係が煩わしく、避ける傾向にあるということをよく耳にするが、日常的に大学生と接している田中の指摘は、さらなる少子化を予想させる。そんな中で、日本が「同性婚」を制度化したら、どうなるのか。

 同性婚支持派は、性的指向は生まれ持ったものであって、同性婚を制度化したとしても同性愛者が増えるわけではない。同性婚を認めた国では、出生率は下がっていないし、むしろ高くなっている国もあるとの反論もある。

 だが、出生率の推移を同性婚という一つの要因だけで判断することには無理がある。労働条件の変化、それによる家族との時間の増減など、さまざまな要因を見ていかないと結論は出ないだろう。たとえ同性婚を制度化し出生率がアップした国があったとしても、家族に対する考え方の違う日本でも同じ状況になるとは限らないのである。

 男性・女性の性別を曖昧にし、結婚を単に当事者の自由意志だけの問題にすることが危険なのは、男女が家庭を持ち子供を産むことが二次的な価値となってしまい、少子化に拍車が掛かることだ。

 LGBTという言葉が米国で使われ出したのは、1990年代半ばだ。それより10年ほど遅れて、日本でも使われるようになったが、メディアに頻繁に登場するようになったのは2015年、東京都渋谷区で「同性パートナーシップ条例」が成立して以降である。

 歴史が新しいこともあって、この言葉の意味を正確に把握することは難しく、田中にもちょっとした誤解が見られる。「LGBTという言葉は性の多様性を肯定しているが、同時に人間はいずれかの性を選んで恋愛するものである、という考え方をその前提に見ることもできる」としている部分だ。

 確かにL(女性同性愛者)、G(男性同性愛者)、B(両性愛者)という性的指向による分類だけを見れば、田中の分析は間違いではないが、T(トランスジェンダー)は性的指向とは違い、「性自認」の問題であるし、その他「アセクシャル」(他者に恋愛感情を持たない人)も含めて、性的少数者と言っているのであるから、「性を選んで恋愛するもの」という前提は成り立たない。

 日本のメディアが「性の多様性」を肯定的に伝えれば伝えるほど、恋愛に興味を失うとともに、結婚の先に幸福を見る若者が減り、少子化に拍車が掛かるであろうことは容易に推測できるのである。(敬称略)

 編集委員 森田 清策