超高齢社会を生きる 75歳まで支える側
「高齢者」の定義変える
世界保健機関(WHO)の定義によると、全人口の中で「65歳以上」の人が占める割合(高齢化率)が7%を超えると、その社会は「高齢化社会」になる。そこから7ポイント増えるごとに、「高齢社会」「超高齢社会」と呼び名が変わる。わが国は超高齢社会に突入したが、高齢化率は約27%だから、WHOの定義に従えば、超高齢社会をとっくに通り越し「超超高齢社会」の状況だ。しかも、高齢化率はさらに高くなるのだから、日本の未来に悲観的空気が漂う。
わが国の高齢化が世界に類を見ないスピードで進む中、日本老年学会と日本老年医学会が今年1月、高齢者の定義を65歳以上から「75歳以上」に変更しようという提言を行い、波紋を広げている。年金の受給開始年齢の引き上げ、あるいは社会保障制度の縮小につながるのではないかと不安視する人たちがいる一方、賛同する意見は予想以上に多い。
「中央公論」6月号の特集「65歳からのハローワーク」は、提言についての医学的根拠に加えて、可能な限り働き続けることの意味を考えさせる特集となっており興味深い。
この特集には、提言の作成に関わった虎ノ門病院院長、大内尉義の論考「高齢者75歳以上提言には科学的な根拠がある」も掲載する。それを一読しても分かるように、提言に説得力があるのは、データの裏付けがあるからだ。
すでに指摘したように、65歳以上が全人口の7%を超えた社会は「高齢化社会」と、WHOが定義したのは1956年。当時の日本人の平均寿命は男性64歳、女性68歳ぐらいだった。しかし、今は男性で80歳、女性87歳である。
寿命が伸びただけでなく、10歳は若返っていることは、さまざまな医学的なデータが示している。また、周囲には70歳を過ぎても元気に働いている人、あるいは働く意欲のある人は少なくない。
超高齢社会で不安視されるのは、社会保障制度の崩壊と人手不足だが、高齢者の定義を75歳以上にして、幾つになっても働くことができる環境を整備することは、この二つの問題を解決するし、多くの人に精神面でもプラスの影響を与えるのは間違いない。
ただ、提言に批判的な意見があるのも事実。それはは、支えられる人たちを強制的に少なくしようとの誤解があるからだ。特集を読めば、その誤解も解けよう。大内の論考によれば、高齢者や筋力の活動が低下している状態を「フレイル」というが、日本人は平均的に若くなったと言っても、健康状態は人によって違う。60歳でも体が弱く働けない人もいよう。75歳以上を高齢者にするとしても、全ての人が75歳まで働けという意味ではない。
元気で働ける人は、年齢にかかわらずに働ける環境を整えることができれば、フレイルな人に対するセーフティーネットはより強固になると理解すべきである。日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでいると言われるが、高齢者を75歳以上に変えようという提言も世界に類を見ない。さすが日本人である。(敬称略)
編集委員 森田 清策