小池都政と「豊洲問題」 「安心」の政治利用

哲学なき「都民ファースト」

 6月23日告示の東京都議会選挙まで1カ月を切った。争点の一つは、泥沼状態の築地市場の豊洲への移転問題。自民党は早期移転を公約に掲げる。一方、共産党は反対に移転中止を訴える。小池百合子知事が事実上率いる「都民ファーストの会」は、すでに発表した公約では市場移転問題には触れずに先送りした格好で、まだ先の見えない状況が続く。

 だが、論壇ではすでに勝負あり。「安全」な豊洲への移転を先延ばしにする知事に対する批判は厳しく、早期に結論を出すべきだとする論考がほとんどだ。

 月刊誌6月号で、豊洲問題を取り上げたのは「WiLL」「新潮45」そして「文藝春秋」の3誌。「WiLL」は、ジャーナリストの有本香と建築家の佐藤尚巳による対談「安心安全な豊洲を弄(もてあそ)ぶ小池ファースト」を掲載。同じく対談で前鳥取県知事の片山義博と弁護士の郷原信郎による「小池百合子、偽りの『都民ファースト』」と、コラムニストの小田嶋隆の論考「『小池劇場』はポピュリズムの悪魔結合である」を載せたのは「新潮45」だ。

 前出2誌の対談と論考の内容は、見出しを見ただけで分かるだろう。豊洲への移転に対する都民の不安を煽(あお)って政局に利用してきた小池とそれをエンターテインメントのように報道してきたメディア、特にテレビ報道への厳しい批判である。

 小池批判の論旨は極めて明瞭である。市場移転問題の土壌汚染対策の専門家会議が豊洲市場は盛り土でなく地下空間でも問題はない、なぜなら地下水の汚染が環境基準値を超えても地下水を使わないので、健康リスクはない、つまり「安全」との結論を出したのだから、都民を「安心」に導くのが都知事の責務だというのである。

 ところが、安全と安心は別として、結論を先延ばしにしているのが現状。そして、テレビなども視聴率稼ぎのためにそれに便乗して、都民の不安を煽ったというものだ。例えば、有本はこう語ってテレビを批判した。

 「『謎の地下空間があるのはけしからん』と言う専門家ばかりが連日出演してネガティブキャンペーンを行っていました。

 一般的な視聴者は『とんでもないことが行われていた』と思ってしまいます」

 また、「市場問題プロジェクトチーム」(PT)の会議に専門委員の一人として参加した佐藤は「地下空間は建物の構造上、存在して当たり前なのです。あまり当たり前すぎて、どうして問題になるのか理解できなかった」としながら、次のような重大発言を行っている。

 同チームの座長・小島敏郎が現実性の乏しい築地再整備案を出して、移転問題をさらに混乱させたことは記憶に新しいが、「小島敏郎氏の言動から感じることは、とにかく豊洲には行かせたくない、と」。佐藤によれば、PTの専門委員は9人いて、うち6人は小島の知り合い。

 しかも、小島は小池が環境大臣の時の部下。そうなると、PTの中立性に疑問が出てくる。そんなこともあって、佐藤は「都議選を見据えた政治的な判断で、小池都知事が移転を引き伸ばしているのは、東京都で働く人たち、ひいては我々都民にとって非常にマイナス」と訴える。片山も市場移転問題を都議選の争点にするという発想は「都民に責任を転嫁する」ことだから、早期に結論を出すべきだと苦言を呈する。

 一方、「文藝春秋」は元都知事の猪瀬直樹、前出の片山、衆議院議員の若狭勝、国際政治学者の三浦瑠麗の4人が豊洲問題だけでなく、五輪なども含めて小池都政の全般を議論している(「小池百合子の急所を突く」)。

 こちらは、昨年の都知事選で小池を応援した若狭も加わっていることから、市場移転の経済的合理性の検証が進んでいるなど、是々非々の議論となった。それでも、市場移転問題では、若狭でさえ「個人的には私も告示前にその方向性を示すべきだと思っています」と語る。都民の動向などを総合的に判断すると、「世間の空気は『豊洲移転』に傾きつつあります」という猪瀬の見方は的を射ている。

 そして、市場移転問題に対する政局重視のアプローチだけでは、「確固たるポリシーがあるようには思えません」(郷原)、「政治的な思想や哲学が見えない」(三浦)。これが「都民ファースト」の限界であろう。

 編集委員 森田 清策