「政治的公平」の広がり
同性婚反対に「差別主義」のレッテル
米国でトランプ新政権の登場を後押しした要因の一つに、「ポリティカル・コレクトネス」に対する白人中産階級の反発があると言われている。ポリティカル・コレクトネスとは、直訳すれば「政治的な公平」だが、差別や偏見を取り除くことを目的に、政治的な観点から正しい用語を使う、といった意味がある。
かつて使われていた「看護婦」が「看護師」になったのは、この仕事には男性も就くからだ。「保母」が「保育士」になったのも、同じ理由からだ。一方で、ポリティカル・コレクトネスは言葉狩りや、逆差別につながりかねないという問題をはらんでいる。
評論家の西尾幹二は月刊「Hanada」2月号で、江崎道朗の「マスコミが報じないトランプ台頭の秘密」(青林堂)や、「週刊新潮」(昨年11月10日号)の大統領選挙直前の現地報告を引用しながら、オバマ前政権が奴隷制度や黒人隔離政策の背景にキリスト教があるとして、西洋文明やキリスト教を否定する自虐教育を米社会に広めたことを指摘。そして、そのことに対する白人層のルサンチマンがトランプ旋風に一役買ったことを述べている(「世界の『韓国化』とトランプの逆襲」)。
たとえば、米国の一流大学で、白人学生が授業中に同性婚に反論したところ、授業後、LGBT団体から「差別」と抗議を受け、「自分の意見を自由に表明することができない」と嘆いたそうだ。自虐教育が広がった米国社会の深層心理に踏み込んだ説得力のある論考に、日本でもポリティカル・コレクトネスが広がる危険性を思わずにおれなかった。
前述の「世界」の鼎談で、牧村朝子が「異性愛中心主義」という言葉を使っている。これもある種のレッテル貼りであり、逆差別につながる恐れのある言葉だ。また、LGBTの権利拡大のためには「言葉狩りも仕方がない」と、堂々と発言する行政担当者も出てきている。
男女の性差を否定するジェンダー・フリーという言葉は使われなくなったが、代わって、来年度から使われる高校の家庭科教科書にはLGBTが登場し、生徒は「性の多様化」を教えられる。人権、偏見・差別撤廃を旗印にしながら、伝統的な家庭を破壊しようとする危険なイデオロギーが学校教育をむしばんでいるのだ。(敬称略)
編集委員 森田 清策