ストレス克服と脳

「公」の意識と「型」がカギ

 月刊「潮」12月号に、脳科学の観点からストレスの克服法を考察した興味深い論考が載った。都立駒込病院脳神経外科部長、篠浦伸禎の論考「日本人が育んできた『右脳的』な発想。」だ。

 篠浦は思考や会話の時に働きが活発となる大脳新皮質を「人間脳」、自律神経や記憶など自分の身を守るための動物的な機能をつかさどる大脳辺縁系を「動物脳」と呼ぶとともに、「公」の意識と「型」の考え方に注目する。

 公の意識はストレスで活性化する扁桃体(へんとうたい)をコントロールすることが分かっている。武士が死の恐怖を克服することができたのは公を重んじる生き方を子供の時から徹底して教え込まれたからだとみる。

 また、武道や茶道、華道などは、行動の基本となる型を重視してきたが、その型は主に運動機能のデータベースともいわれる小脳に記録される。その小脳を鍛えると「大脳であれこれ悩んだり、思考するよりも早く、反射的に答えを出したり、行動したりできる」ので、「無用なストレスの軽減にもつながる」というのだ。そして、篠浦は「教育とはまさに人を創(つく)る作業であり、社会において各人が役割を果たすための脳の回路を作る作業と捉(とら)えることもできます」と強調する。

 だが、明治以降、西洋型の教育が主流になって日本人の脳の使い方も変化した。「現代を象徴(しょうちょう)する個人主義と拝金(はいきん)主義の蔓延(まんえん)は、『公』ではなく『私』を優先する生き方そのものであり、日本人が大切にしてきた考え方の『型』をも失ってしまった姿ではないでしょうか」と嘆く。

 ストレスに弱い日本人が増えたとすれば、それは教育の失敗を意味するのだろう。(敬称略)

 編集委員 森田 清策