日本の「右傾化」、政権批判に利用するレッテル

 慰安婦問題と原発事故における「吉田調書」についての誤報で朝日新聞批判が高まった時、中国共産党機関紙、人民日報は安倍首相の下で進む日本の右傾化の産物と報道した。韓国のメディアも、歴史認識の問題で論議が起きると、日本の右傾化の結果として、説明してきた。

 果たして、日本は本当に右傾化しているのだろうか。ジャーナリズムの使命は、レッテルを剥がして、真実がどこにあるのかを伝えることだが、逆にレッテル貼りを行うマスコミもある。

 現役官僚の寺内敬が「Voice」4月号に寄せた論考「日本は右傾化しているのか」は、右傾化報道する国内メディアとして、朝日新聞と東京新聞を挙げた。たとえば、東京新聞は昨年5月20日付「こちら特報部」で、沖縄で「反・反基地」運動が起きている背景には「安倍政権に代表される日本社会の右傾化が横たわる」と報じた。

 この論考を読んで気になったので、新聞記事のデータベースで調べた。3月25日からの過去1年間で、「日本」と「右傾化」の二つの言葉が含まれた記事の本数で一番多かったのは、朝日新聞で68本。2番目は産経新聞50本、3番目は東京新聞44本だった。「安倍政権」と「右傾化」で調べても結果は同じだった。保守派の産経が2番目となったのは右傾化報道に対する批判記事が多かったからだ、と推測できる。

 寺内の論考は、国政選挙の結果からしても世論調査から見ても日本の社会に右傾化の要素は見いだすことはできないと結論付けている。国政選挙の投票数を見ると、近年で自民党が最も多かったのは、平成17年9月の「郵政選挙」で、直近の3回の選挙の得票数はそれに遠く及ばない。

 その一方で、日本共産党は昨年の総選挙で、過去10年で最多の票を獲得している。しかも、有権者の関心は経済対策や社会保障問題が中心。右傾化の象徴として語られる安保政策や憲法改正への関心は総じて低くなっている。

 韓国メディアからは「極右」のレッテルを貼られることもある安倍政権の支持率は50~60%で推移するが、世論調査を行うと、政策別で評価が高いのは経済政策。右傾化の根拠と言われる集団的自衛権行使容認などは、むしろ支持率を下げる要素になっているという結果が出ている。日本の右派勢力が会員数を増やしている事実もない。

 こうしたことから、寺内は「日本社会の右傾化」というフレーズには根拠や裏付けとなる事実は存在しないと結論づけ、安倍政権を気に入らない諸勢力による「感情や一方的な思い込みに基づく政権批判のための“キャッチコピー”程度の意味しかない」と断じている。

 一連の誤報問題の検証で明確となったのは、事実報道よりもイデオロギーを優先する朝日新聞の偏向体質だった。日本の右傾化というレッテル貼りもその報道姿勢から生まれたものと言えよう。(敬称略)

 編集委員 森田 清策