首相の消費増税表明に喝采する産経と日経、「やむを得ぬ」朝日、読売
◆景気への影響を懸念
来年4月の消費増税(税率5%から8%へ)が正式に決まった。4~6月期の国内総生産(GDP)改定値や9月調査の日銀短観などの「良い」結果を受けての安倍晋三首相の決断である。
1日の決定から既に20日近くがたち、今さらという気がしないでもないが、実に17年ぶりの消費増税ということでもあり、改めて各紙の論評を確認したい。
翌2日付の各紙はいずれも、通常2本立てを1本でまとめた大社説にした。論調は産経、日経の賛成、東京の大反対は予想通り。ほかでは、毎日が「妥当」といい、朝日は「やむをえない」、読売は「先送りすべきであるが、首相が自らの責任で重い決断をした以上、これを受け止めるしかあるまい」とした。ちなみに本紙は「景気回復の勢いを削ぎ、税の自然増収拡大の道を自ら塞ぐことになる。財政の悪化が懸念される」である。
この中で、読売は本紙同様、「消費増税で景気を腰折れさせては本末転倒だ」との懸念を示し、政府は経済運営に万全を期さねばならない、と注文を付けた。また、読売と産経、毎日、本紙の4紙が低所得者対策として、住民税非課税世帯に支給する「簡素な給付措置」では限定的として、生活必需品などへの軽減税率の導入を求めた。
◆一理ある朝日の訴え
論調の違いは、消費増税とともに発表された5兆円規模の経済対策でも見られた。
特に法人税の減税について、読売、産経、日経は成長戦略上「急務」(読売)、「成長に資する責務」(産経)、「負担を恒久的に軽減し、日本経済を底上げすれば、個人にも恩恵が及ぶ」(日経)と評価するが、朝日は「所得の少ない人の負担が重い消費増税では、低所得者への支援策が必要だ。補正予算にその費用を盛り込むのはわかる。しかし、対策の柱がなぜ、法人税の減税なのか」と疑問視する。
企業は経済成長の担い手であり、雇用の場でもあるが、日銀の統計から、朝日は「現金・預金だけで220兆円も抱え込んでいる」のに、「多くの企業は、収益が上向いても使おうとしない」として、こうした現状を改める必要があると指摘。「財政への影響が大きい一律減税の前に、賃金や雇用、投資を増やした企業の税負担を軽くする手立てに集中すべきではないか」と提案するが、一理ある。
この点は、日経なども「企業がいたずらに手元資金を積み上げるのでも困る」として、「投資の拡大や賃上げに踏み切る企業自身の努力も望まれる」と指摘する。
一方、東京の大批判の理由は、「大義が見えない」(社説見出し)である。消費増税は、それをしないといって政権に就いた民主党の「マニフェスト(政権公約)違反」に始まった。昨年8月に成立した消費税関連法も、社会保障制度との一体改革であるはずなのに増税だけが先行して決まり、年金制度など社会保障の抜本改革は見送られた――。
そんな東京が求めるのは、「安心できる社会保障制度の将来像を具体的に描き、その実現のために無駄な財政支出を徹底的に削減し、公平な負担を確立する」ことである。
この点は、毎日も増税による財政のゆとりは社会保障策の充実にのみ使うべきで、「それが税率引き上げ(増税)の原点である」と強調し、安心できる年金、医療、介護などの具体化に精力を傾けるべきとした。
ただ、同紙は、国民会議が所得に応じた負担と給付への転換を打ち出したことを評価し、「政治的困難さを克服して着実に実行に移し」「不備や課題はそうした中で柔軟に対処していけばいい」と東京との違いを見せた。
◆楽観的な日経の論調
小欄でたびたび指摘してきたが、一番気になるのが、特に日経に見られる「消費増税=財政健全化」の楽観論である。今回も「財政再建の一歩を踏み出す」(日経)と、読売が気にした景気腰折れ懸念を全く示さない。
元日銀理事の鈴木淑夫氏は本紙13日付ビューポイントで、今回と前回消費増税が行われた1997年度の、それぞれ過去3年間の経済成長率を比べ、前回の方が今回より趨勢的に高かったのに、それでも消費増税に耐えられなかったとし、今回の「経済の現状を強く見過ぎてはならない」と警告するのだが。
(床井明男)