ワシントン舞台の情報戦、対中韓で後手に回る
「静かなる外交」からの脱却を
知日派の学者として知られ、今年春「ワシントンの中のアジア――グローバル政治都市での攻防」(邦訳)を上梓した米国ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究センター所長のケント・カルダーが「中央公論」9月号でインタビューに応じ、「水面下で交渉する『静かなる外交』から脱却して、ワシントンでの情報戦に生き抜くよう、提言している(「もはや、日本流『静かなる外交』は通用しない」)。
この中で、カルダーは国際交流基金や日本経済団体連合会(経団連)がワシントン事務所を閉鎖するとともに、民主党政権時の「事業仕分け」で、広報文化外交の予算が急激に削られたことなどから、ワシントンにおいて日本は「目に見える形で存在感が失われた」と指摘した。
これに対して、中国は政府のトップダウンで国営中央テレビ(CCTV)が英語放送を開始。また、英字新聞『チャイナ・デイリー』が安価な値段で売られている。こうした豊富な資金力を誇る政府系メディアは、中国文化を紹介するなどソフトなイメージを作り上げるだけでなく、「日本の歴史認識や日本との領土問題などでは中国政府の主張を代弁する役割」を果たして、日本に対して情報戦を仕掛けてきていると強調する。
一方、韓国は、急増する韓国系米国人と連携しながら、地方議会や連邦議会に働きかけて影響力を増している。その代表的な例が、いわゆる「慰安婦像」の設置であり、「日本海」と、韓国が主張する「東海」の併記を義務づける州法の成立(バージニア州)と言える。中国と同じように、韓国もまた米国においては存在感を高め、情報戦では日本に優位に立っているという。
カルダーが著書の中で指摘していることだが、その原因は機関の閉鎖や予算の削減に加えて、日本が「伝統的に、金融拠点としてのニューヨークでの活動に重点を置いてきた」ことも大きく影響している。東京の姉妹都市はニューヨークだが、ソウルと北京のそれはワシントンである。
「米国にとって日本がアジアで一番の同盟国」であるのは間違いないが、米国の政治家は日本人が思うほどには、日本のことを知らない。ワシントンの意思決定もイメージに左右されやすくなっている。このため、中国、韓国が仕掛けている情報戦に対応するためには、日本政府は「静かなる外交」を脱却して、経済界やNGOを巻き込んだ情報戦に打って出る必要があるというのが、知日派学者の忠告である。(敬称略)
編集委員 森田 清策