女性政策と「クオータ制」、「荒療治」としての数値目標
「下駄を履かせ」への拒否感情も
政府は、女性管理職の比率を2020年までに3割に引き上げる計画を打ち出している。基になったのは、自民党の選挙公約「20/30」(にぃまる・さんまる)。すべての分野で、20年までに30%の女性を活用するという政策だ。男女共同参画の観点ではなく、成長戦略として打ち出されている。背景には働き手の減少がある。
だが、数値目標を掲げることには賛否両論ある。フェミニズムの観点からではないとしても、安倍政権の女性政策に対しては、保守派の識者の間には、警戒感がある。家庭や子育て、そして仕事との関わりの面で女性の生き方は多様だが、女性の社会進出を促すことに偏った政策となれば、結果として家庭の価値が軽視され、少子化に拍車がかかりかねないとの危機意識があるからだ。
たとえば、「正論」9月号の鼎談(ていだん)「『早く結婚しろよ』批判報道が封殺したこと」の中で、保守派の論客、八木秀次(麗澤大学教授)は「女性の社会進出を否定するわけではありませんが」とことわりながらも、この計画に「育児より働け」という風潮を見て取っている。優先すべきことは「産めよ、増やせよでないと、国が滅びる時代」という危機意識の共有という認識だ。
また、ジャーナリストの細川珠生も「女性に下駄を履かせて、出世させるというような手法は無意味」であり、「女性が仕事と家庭、両方をやっていくのは大変ですが、苦労しながらも両方やっていく覚悟がなければ、どちらかの選択しかない」と指摘する。男性と対等に仕事をしたいとの意欲を持つ女性であれば、下駄を履かせてもらって昇進したと思われたくないのは当たり前のこと。制度よりも女性の意識が重要ということだろう。
「新潮45」9月号の鼎談「女たちよ、政治家をめざせ!」では、20/30プロジェクトを進める自民党の女性議員が三者三様の意見を述べていた。議員数に女性枠を設けるクオータ制について、野田聖子(衆議院議員・総務会長)は「男性社会」の政治を変えるには「自主性」に任せていてはダメで、「荒療治が必要」として積極的に賛同する。
これに対して、金子恵美(衆議院議員・総務)は「数だけ追い掛けるのは、少し乱暴」で、「適正ややる気」を考慮すべきだと反対する。それでも、「政党の中で女性候補の枠を一定数以上に決める」ことには賛成する。
野田と金子の中間派は小渕優子(衆議院議員・文部科学委員長)。「機会の平等という観点から考えたときに、女だからという理由で下駄を履かされるのはごめん」と、細川と同じ認識を示す。その上で、1期か2期取り入れ「そうやって、爆発的な刺激を与えてみてどうなるか」と、クオータ制の限定的な採用に賛同した。
労働人口の減少が進む中で、女性の社会進出に期待が高まるのは自然な流れだが、それが男女共同参画というフェミニズムの影響を受けたアプローチで推進されるとなると、少子化がさらに進んで、将来に禍根を残す懸念がある。それを防ぐには、保守派の女性議員が安倍政権の女性政策に積極的に関与し、働くことだけでなく、出産・子育てとのバランスを取った政策にすることが重要である。
3人の鼎談がフェミニストと一線を画していることを明確に示したのは、野田が冒頭から「金子さん、あなた早く子ども産みなさい」と、独身の金子を説教したことだ。「年を取ってから子どもを産んで育てるっていうのは、やっぱり医学的、肉体的にかなりきつい」と野田が言えば、小渕も「子どもは、めちゃめちゃ可愛いよー」と、金子を諭した。
都議会で「早く結婚したほうがいいじゃないか」というヤジが「セクハラ」として問題になったことを意識し、野田はあえて「早く産みなさい」と、月刊誌上で発言したのだろう。女性に出産適齢期があるにもかかわらず、男性が「早く出産を」と言うと、「セクハラ」と批判される風潮が強まり、この問題に触れることがタブー視されるようになっている。しかし、結婚しても子供ができない夫婦が増えているのは女性の晩婚・晩産化にあることもはっきりしており、少子化を改善するには女性の適齢期での出産を促すことが不可欠。出産についての女性の意識変革を促すには、出産・子育てに苦労する女性政治家が「早く産みなさい」と、積極的に発言することである。
編集委員 森田 清策