香港・中国、同性婚めぐり新たな動き

 米国連邦最高裁が6月26日に同性婚を全州で認める判決を下したことで同性愛をタブー視する中華圏でも新たな動きが出始めている。中国では女性民主活動家が同性結婚式を行ったり、同性婚を認めない法令がある香港では性的少数者(LGBT)への差別撤廃を求める重点活動を関連団体が9月に準備。中華圏の同性愛者カップルが同性婚を認める欧米諸国への結婚旅行ツアー計画で新たなLGBTビジネスを皮算用する動きも出ている。(香港・深川耕治、写真も)

民主化運動と巧妙に連携

差別撤廃で世論形成図る

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2014年7月1日、真の普通選挙実現を求める民主化デモでは同性愛の差別撤廃を要求する同性婚支持者がデモ隊の先頭から2番目に参加。サングラスをかけながら巧妙に同性愛者の権利を主張した

 米国の同性婚合法化の動きに伴い、香港ではLGBTの権益保護を主張する民間組織「大愛同盟」が同性愛者に職・住に関して平等に扱うことを支持する「ピンクドット活動」を9月に挙行することを発表した。

 香港では法令(婚姻条例第40条)で同性婚は認めらておらず、同性愛者の労働福利、住宅政策、免税などの優遇措置は与えられていない。旧宗主国の英国では2013年に同性婚が合法化しているが、香港はカトリックやプロテスタントのキリスト教系団体が結束して同性愛や同性婚に反対し、大規模な反対集会を行っており、法改正を行うのは難しい状況だ。

 そこで、13年4月に発足した大愛同盟の中核メンバーである民主派政党・工党の何秀蘭立法会議員は6月末、香港大学民意研究計画に同性愛者への差別や偏見に関する世論調査を依頼し、高齢者や若年層、保守派の意見分析に力を入れることを明らかにして、差別撤廃からの世論形成アプローチを進める戦略だ。

 ロンドンや香港を拠点とする投資顧問会社のLGBTキャピタルのポール・トンプソン総裁は「中国の同性愛者人口は全人口の5%で約7000万人。潜在的な市場価値は3000億米㌦で、欧州や米国に次ぐ規模」と触手を伸ばす。四川省成都の同志天堂旅行ネットでは同性愛者専用の国内旅行とタイ旅行のツアーを行い、スタッフも同性愛者。

 さらに、中国の同性愛者にとって同性婚が認められている国・地域での結婚旅行ツアーが人気となっている。結婚証書を受け取り、ホテルでの合同結婚式に参加できるニューヨーク6日間ツアーが1人6280米㌦で、夏休み期間に人気が集中しているという。

 中国本土でも、同性婚の権利を求める動きが多面化している。

 13年2月26日、北京の20代女性2人が同性婚の受理を求めて同市内の結婚登記所に結婚申請書類を提出しようとしたが、担当職員に婉曲(えんきょく)的に拒否された。中国では同性婚は法律上、認められていない。同年、北京で定年退職した元教師の男性は水道職員の男性と同性婚を認めてもらうため、北京市内で結婚披露宴を挙行し、当人たちの微博(ミニブログ)には11万回のアクセスが集中した。

 米国で同性婚が合法化された後も、中国政府は同性婚を認める動きはない。むしろ、同性婚容認の要求を民主活動家が民主化の一環として巧妙に展開している動きに警戒を強めている。

 7月2日、中国の女性活動家の李婷婷氏(25)がパートナーの女性(27)と北京で同性結婚式をお忍びの形で挙行した。香港のRTHK(香港電台)など一部の海外メディアも呼んで式場スタッフが見守る形のごく少数での披露宴の形だが、式を行った写真がネットで広がり、中国でも同性婚の主張に関心が高まっている。

 李氏は3月、国際女性デーに合わせ、バスや地下鉄での痴漢行為防止を訴える計画を立て、中国当局に拘束された。男女不平等やLGBTへの差別撤廃を求めるリーダーで同性婚の合法化を目指していて、中国当局から見れば、民主化に巧妙に同性婚の権利を含める二重の側面で強く警戒している。

 中国では古来、殷や周王朝から同性愛が存在し、司馬遷著「史記」や「漢書」には歴代皇帝や臣下の間での同性愛があったことが記されているだけでなく、明や清代の小説「続金瓶梅」「宜春香質」「龍陽逸史」などには同性愛の心理が克明に描写され、少数だが連綿と存在していた。台湾の小説家・白先勇氏は「中国では古代ギリシャ時代と違い、同性愛を極刑に処すようなことはなかったが、皇室貴族が同性愛にふけることに反対するのは政治的理由からだった」と語る。同性愛は宮廷内で極秘裏に一部で黙認されても、対外的には皇位継承を阻み、王朝崩壊に陥る政治的、道徳的タブーとされてきた。共産党政権下においても、党幹部の乱倫による汚職腐敗だけでも政権基盤が揺らぎかねないため、社会的禁忌だ。

 香港や中国文化に詳しい香港月刊誌「前哨」の劉達文編集長は本紙の取材に対し、「中国では当然、社会の主流思想から同性愛は反対する。党幹部の腐敗堕落だけでなく、民衆レベルでも乱倫に拍車が掛かり、収拾がつかなくなる」とした上で「中国政府としては同性愛を支持する動きには極めて敏感に対応し、しかも、民主活動家であれば動向を監視される。中国では同性愛が許容されるには今後50年以上かかるだろう」と述べている。