同性婚の是非で揺れる中華圏

香港・台湾、保守が結束し反対運動

中国、性の乱れで容認の動き

 同性婚の合法化をめぐり、中華圏では賛否が先鋭化しつつある。特に台湾や香港で同性愛者を中心とした同性婚推進派が合法化に向けた法案準備を本格化させると、保守派や宗教団体などが結束して反対運動を展開。中国では性の乱れを抑止できず、欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進が市民権を得始めている。
(香港・深川耕治)

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5月18日、香港の九龍公園周辺で行われた同性婚反対のパレード(維護家庭基金提供)

 中華圏では長らく同性愛、同性婚問題は政治的にタブー視され、家庭崩壊を招くと表面上は忌み嫌われてきた。欧米で同性婚が認められる事例が増え、同性愛者の権利を拡大させるジェンダーフリー教育の動きが広がる中、中華圏で風穴を開けやすい地域として狙われているのが、中国ではなく、香港、台湾だ。

 台湾では陳水扁政権(民進党)時代の2003年、同性愛者向けイベントに何度も出席していた陳総統が同性婚を法的に許容する立場を示し、総統府が人権保護法に基づいて同性婚や養子付与を認める法案を提出したが、閣僚の反対で引き延ばされ、今なお法案が立法化される見通しが立っていない。

 昨年10月、同性婚やそれに伴う養子縁組容認を盛り込んだ3度目の民法改正案が最大野党・民進党によって提出されたが、法案は通らず、阻止された。当時、同性婚の合法化を求める同性愛の市民団体「台湾伴侶権益推動連盟(伴侶盟)」が民法改正案の可決を求めて同性カップルら約1000人がデモを行い、徐々に同性婚支持を広げていた。伴侶盟は台北で行った世論調査では、同性婚を支持する市民は53%で10年前に比べて倍増した、と強調する。

 台湾で昨秋、同性婚合法化を阻止できたのは、保守的な宗教団体などが結束して反対運動を展開したことが大きい。李登輝元総統も合法化反対を表明している。

 昨年11月、台北市の総統府前広場でキリスト教、仏教、道教などさまざまな宗教団体と与党・国民党など18人の立法委員(国会議員)、学生など30万人が同性結婚に反対する空前の大規模デモを行った。参加したキリスト教団体は「同性婚は健全な家庭と本来、天が祝福する一夫一婦の結婚制度を破壊する」と猛反発し、宗教各派の垣根を越えて連携結束する動きだ。

 香港でも5月18日、国連の国際家族デー(5月15日)に合わせて約80の団体が合同で伝統的家庭観を崩壊させる同性愛運動に反対する大型パレード(主催・キリスト教系の維護家庭基金)を行い、チムサーチョイの九龍公園には約8000人が集まった。参加者らは「一男一女、一夫一妻」「男女が家庭を築き、孫には祖父母がいる」などとシュプレヒコールを上げ、「決して同性愛者への差別を助長しているわけではない」(キリスト教系の明光社)としながらも同性婚が伝統的家庭観を崩壊させるとして反対する立場を鮮明にしている。

 香港では昨年4月、ミュージシャンの黄耀明(アンソニー・ウォン)さんがコンサートで同性愛者であることをカミングアウト。同年9月、立法会選挙で当選した民主派の陳志全氏が同性愛者であることを認め、同性愛者や同性婚についての議論が高まりつつある。

 中国でも同性愛や同性婚への認識が変わりつつある。

 中国の政府系シンクタンクである中国社会科学院の李銀河教授は欧米で広がる同性婚の動きをいち早く奨励、禁欲による純潔よりも性交教育のメリットを礼賛する中心人物だ。

 李銀河氏は1952年、北京生まれで山西大学卒業後、米国ピッツバーグ大学で社会学博士号を取得。同大留学中に小説家の李小波氏(97年に死去)と結婚し、性の権利に関する研究では「同性愛は社会和諧の一つとして尊重すべきだ」「禁欲純潔よりも婚前性行為による避妊法を教える性教育こそ少女妊娠や流産を防ぐ道」と主張し続け、中国での急進的性教育の第一人者となっている。

 同性婚に関しては、91年から連続14回、社会科学院の代表団を通して合法化するように全国人民代表大会(国会)に法案を提出し続けているが、中国共産党は家庭崩壊が党の崩壊に直結すると憂慮しており、立法化には慎重な姿勢を保っている。

 李教授は中国の同性愛者が約4000万人(うち3000万が男性)存在すると推計。現代中国社会では偏見と差別にさらされているとして、同性愛者の権利拡大を率先して啓蒙(けいもう)、主張している。

 全国各地の大学での講演活動では、参加者はどこも満席状態。中国の大学では学生が同棲(どうせい)生活することが奇異でなくなり、深刻な妊娠、出産、流産の問題を抱えている。即応できる性教育や打開策がない中で欧米型の同性婚推進や性交避妊教育の推進に説得力を持たせ、禁欲による純潔結婚のメリットが色あせている。

 危機感を高める中国政府は青少年の性教育を避妊優先の欧米型ではなく、儒教道徳に即した婚前純潔教育に転じようとの動きもあるが、一人っ子政策の見直しで性道徳の乱れを矯正する方針転換が遅れ、なお影響力が弱い。

 世界各地で開催されている同性愛者の権利をアピールするイベント「プライド」は、上海でも6月13~22日に行われる。今回が6回目で、同性愛を扱った映画のネット投票や鑑賞会、座談会などが準備されており、同性愛者や同性婚の権利拡大を後押しする動きが年々強まっている。