アエラが主張する児童相談所の役割を軸とした児童虐待防止策には限界
◆17年からDVで相談
千葉県野田市の小学4年、栗原心愛さんが死亡して、両親が傷害容疑で逮捕された事件について、アエラ2月18日号は「救えるチャンス」と題し扱っている。「児童相談所も、市役所も、学校も、虐待する父親の言いなりになった。どうすれば子どもを救えるのか。児童相談所のあり方が問われている」というリード文。
既に2017年7月上旬には、心愛さんの母親の親族が、父親の恫喝(どうかつ)や家庭内暴力の悩みを地元自治体に通知している。家族は同年、千葉県野田市に転居。心愛さんは、その年の11月に、小学校のアンケートで「お父さんにぼう力を受けています」と訴えた。
これに対し千葉県柏児相が一時保護を開始したが、約3カ月後の翌18年2月下旬に児相は心愛さんを自宅に戻す決定をし、3月上旬に両親の元に帰した。
心愛さんは、今年当初から小学校を休んでおり、学校側は市の児童家庭課にその事実を報告。しかし市は「緊急性はない」と判断し、児相への連絡をしなかったという。そして今年1月24日に、救急隊が心愛さんの遺体を自宅の浴室で発見、父親の栗原勇一郎容疑者が逮捕された。
タイトルの「救えるチャンスはあった」というのはどの時点の対応を言うのか、記事中、直接の指摘はないのではっきりしないが、今年に入っての心愛さんの長期欠席の事実が、児相に伝わっていなかったことについて、「学校、自治体、児相との連携がまったくとれていなかった」と特に問題視している。従って、この時点の対処いかんで、救えた、ということになろうか。
が、果たして児相などに事態を収拾する力はあったか、アエラの見方は楽観過ぎないか。
◆児相は福祉相談機関
「児童相談所」は、市民の子供の福祉に関する相談に応じ、援助などを行う、各自治体に置かれた行政機関。年配の方はご存じだろうが、以前は、文字通り、市民の相談事に耳を傾けアドバイスするのが主な仕事で、相談者も少なく、建物も郊外にひっそりあり、応じる職員数もごく限られていた。
ところが、家庭内暴力や児童虐待が頻発するようになり、2000年には、児童虐待防止法が成立、施行された。そこで児相が強制力で児童を保護し、保護者の面会を制限できるようになった。児相は大きな社会問題を解決するための主役の座に一気に立たされた格好だ。全国に210カ所ある児相が16年度に対応した児童虐待相談は、12万2575件で、この5年で2倍以上増えている。
記事では、家庭、学校、自治体を結ぶ役割を担うのが「児相」だという位置付けだ。しかし、福祉・教育の相談をもっぱらにした児相の成り立ちから見て、児童虐待の事件を収拾するための機関の中心で立ち働くには荷が重過ぎる。
アエラが再発防止の対策で挙げているのは、児相で面接、家庭訪問、一時保護、その後のフォローまで行う「児童福祉司」の質の向上。児童福祉司は児童相談所に配属された人間で、専門的な知識や技能を持った「士」職ではなく、これを「専門職として採用する仕組みに変えるなど、質を上げていく必要」を説いている。これも取り組むべき課題だが、筆者(片上)は、児童虐待・家庭内暴力に特化した対応機関の設立が急務だと思う。
2000年の児童虐待防止法制定時には反対運動も盛んであって、その反対理由の一つに、「暴力への対処は警察が取り組むべきだ」というのがあった。実際、その通りの時代展開となった。しかしちまたの暴力事件と違って、児童虐待の根底には家庭崩壊現象がある。家庭の弱化がさまざまな問題を起こしている。家庭機能の回復を目指す理念の構築などを含む対応機関が必要だと思われる。
◆隣近所の対応が重要
アエラの記事でも「児童相談所や学校が、親に毅然と対応できない現実を踏まえた上での再発防止法」というただし書きを付けながら、「児童相談所全国共通ダイヤル『189』ではなく『110』へ」の変更の効果を弁護士に語らせている。しかし記事では、あくまで児相の役割強化を前面に出している。
児童虐待発覚は、隣近所の警察への通報があって、解決を見た例が少なくない。近隣の対応も重要になる。
(片上晴彦)










