自民に憲法改正の取り組みを強め選挙で訴えるよう求めた産経と小紙
◆憲政の王道説く読売
なるほど、うまく付けたものだ、と思わず感心してしまった。10日の自民党大会を解説する特集記事の見出しである。読売の「鬼門選挙 首相必勝期す」(11日付「スキャナー」)に対して、朝日が「自民、亥年の気がかり」(同「時時刻刻」)。それぞれサブ見出しの「谷垣氏演説 党の多様性演出」、「地方に漂う『安倍離れ』」に、両紙の安倍晋三政権とのスタンスが絶妙に表れているからだ。
自民党の第86回定期党大会で、安倍首相(党総裁)は今年同様に統一地方選挙に続いて行われた12年前の亥(い)年参院選での惨敗を念頭に、今年も厳しい戦いが予想される参院選について「まなじりを決して戦い抜く先頭に立つ」決意と、改めて憲法9条に自衛隊を明記する改憲への強い意欲を表明した。
党大会の首相演説では、首相が旧民主党政権時代を「悪夢」だと発言したことに対して、12日の衆院予算委員会で同政権で副首相だった岡田克也氏(立憲民主党会派)が撤回を要求。両者が激しい応酬を繰り広げるオマケまで付いた。「全否定のレッテル貼りはやめろ!」と激怒する岡田氏に、首相も「『安倍政治は許さない!』と全否定したプラカードを持ったのはどこの党か」と応戦したのである。
自民党大会について13日までに論調を掲げたのは日経を除き5紙だが、その論点は大きく分かれた。前出の2紙は読売(11日付社説)が「政府を支え、活発な政策論議で選択肢を示す。政権党としての責任を自覚し、主体的に取り組まなければならない」と人口減対策など中長期の政策課題に正面から解決策を探る姿勢を求めた。党是の憲法改正には、党を挙げて取り組み「粘り強く働きかける」ようオーソドックスに主張。高水準を維持する安倍内閣、自民党支持率に安住せず「謙虚に、結果を出すことが大切だ」と注文もやんわり付けた。地味だが、憲政の王道を説く正論だ。
◆「反安倍一色」の朝日
対する朝日(同)は「いつまで『安倍一色』か」の勇ましいタイトルが示すように、敵対的社説である。国会論戦となっている統計不正では首相演説が「『徹底的に検証し、再発防止に全力を尽くす』と短く触れただけ」だと批判。昨年の加計学園の問題なども絡めて「自身が招いた政治不信の解消に正面から向き合」うよう主張。首相の改憲への言及も短かったが、こちらは「前のめりの姿勢とはきっぱりと決別すべきだ」と説く。全ては「安倍1強」の弊害だと言わんばかりに「今の自民党に、政権を内側から厳しくチェックする役割を期待することはできない」と断罪。自民党に「国民政党」の自負があるのなら「いつまでも『安倍一色』ではその責任は果たせない」と迫るのだが「いつまでも『反安倍一色』では、野党もメディアもその責任は果たせない」とも思わされるのである。
毎日は社説を党大会当日に掲載した。「政権奪還から6年余が過ぎ、強力なライバル党は存在しない」としながら、その批判がまともな政策提案がなく揚げ足取りに終始する野党の体たらくにあることには目を向けない欠点はある。それでも「党内の政策論争も低調だ」として、その例に保守派も懸念する日露の北方領土交渉の不透明さを指摘したことは一理ある。
◆改憲への道開く好機
産経(11日付主張)と小紙(13日付社説)は、共に党是の憲法改正の取り組み強化を求める主張である。「首相も自民党も、憲法改正のかけ声は高らかだ」と認める産経は「けれども、国民の間へ分け入って、改正の必要性を訴え、賛同の輪を広げる努力は必ずしも十分ではなかった」と指摘。例年にも増して有権者に接する候補者や議員らは、その機会に「憲法改正の必要性を繰り返し訴えなければならない」「(都道府県の6割以上が隊員の新規募集に協力しないという自衛隊への異常な扱いの)払拭のためにも、自衛隊明記は急務といえる」と強調する。
小紙も「(改憲は)日本の未来を左右する国民的課題だ。党一丸となって新たな御代を切り拓く。その意気込みが問われている」「統一地方選と参院選は党組織を強化し、草の根の改憲運動を巻き起こす絶好の機会だ。これを逃せば、立党の際に掲げた改憲の道が開けない。そう心得て亥年決戦に臨むべきだ」と訴えた。同感である。
(堀本和博)