中学生への「避妊」「中絶」教育のプロパガンダと化す「ハートネットTV」
◆放送法4条を無視
先月、任意団体から一般社団法人になった「放送法遵守(じゅんしゅ)を求める視聴者の会」(百田尚樹・代表理事)が3年前に行った調査によると、「平和安保法制」に関するTBSの報道における賛否バランスは「賛成」15%、「反対」85%だった。TBSに限らず、テレビが偏向報道を続けていることは、この数字が明確に示している。
放送事業者が番組編集の際に守るべき原則として、政治的公平などを義務付けた放送法4条の撤廃案が政府内に浮上した際、偏向報道を行って恥じない民放各社が「偏向報道が増える」と強く反発したのは、悪い冗談かとわが耳を疑った。
同法4条の重要性を指摘したのは民放だけではない。NHKの上田良一会長も先月「4条はニュースや番組で遵守すべきものだ」と語ったが、もしかして、同会長はNHKの番組をあまり見ていないのではないか。4条には、政治的公平のほか、意見対立のある問題については多角的に論点を明らかにすることも明記している。もし見ているのだったら、4条を遵守している番組がNHKにどれほどあるのか、知らないはずはない。4条を無視し続ける番組の一つに、Eテレの福祉情報番組「ハートネットTV」がある。
◆多角的な視点を欠く
この番組は先月24日、「最新の福祉ニュースをジャーナルな視点で読み解く」(同番組サイトから)という企画のニュース解説番組を生放送した。その中で取り上げられた話題に、中学校での性教育があったが、そこでは政治的公平性も多角的な論点を明らかにする姿勢も微塵(みじん)も感じられなかった。
問題となった性教育とは、東京・足立区の中学校が3月、総合学習で行った授業。番組は「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」などの文言を使い、「望まない妊娠をしない実用的な知識を紹介した」とする一方、中学校の学習指導要領(要領)では、妊娠の経過については扱わないことになっていることから、「都教育委員会(都教委)が適切だったかどうか、調査する事態に発展している」と伝えた。
これに対する出演者のコメントが偏向そのものだった。「性教育への時代錯誤な政治介入も気になった」と、語ったのは評論家の荻上チキ氏。
要領では、避妊や人工妊娠中絶は本来、高校で指導する内容。しかも、性についての考え方は、家庭によって大きく違う。中絶を禁止する宗教もあるのだから、子供に避妊や中絶の知識なんて、教えてほしくないと思っている保護者がいても不思議ではない。
従って、性教育は要領だけでなく、家庭の考え方や子供の発達段階など多角的な視点から行う必要がある。その原則を無視して行われた授業について、区教育委員会を指導する立場にある都教委が調査に乗り出すのは当然のことで、これを「時代錯誤な政治介入」と決め付けるコメンテーターと、そんな人間を出演させたNHKの見識が疑われる。
◆想像力欠如した発言
問題発言はこれだけではない。中野淳・キャスターが「正しい知識を学ぶことが自分を大切にすることにつながりますものね」と水を向けると、荻上氏は「そうですね。科学的な知識って不可欠ですからね」と同調した。
既に指摘したように、性教育は子供の発達段階に応じて行うことが大切である。たとえ「正しい知識」「科学的な知識」でも、それをどう受け取るかは、子供によって大きく違う。性交、避妊、中絶についての具体的知識を聞いて、悩みを抱き性に嫌悪感を持つようになる子供も出てくるかもしれないと思わないのは想像力の欠如である。逆に、子供によっては、要領を超えた内容を指導する必要があるケースもあるだろうが、その場合は、保護者の了解を得た上で、授業ではなく個別指導で行うべきなのだ。
性教育に多角的な視点が必要であることには触れずに、中学生でも「正しい知識」を与えれば正しい判断をするはずというのは、無知も甚だしい。そうした考え方の危険性を知りながらも、意図的に発言しているとするなら、ハートネットTVは、都教委も問題視する性教育の“プロパガンダ番組”ということになる。
「4条は遵守すべき」と明言する上田会長。まずは、NHKの番組に4条を遵守させるべきではないか。
(森田清策)