児童虐待、責任欠いた結婚観こそ元凶


 児童相談所(児相)の虐待対応件数が昨年度、初めて10万件を超え、25年連続の過去最高となった。相談・支援体制の強化を進めながらも、虐待が増え続ける事実は、政府の対応を抜本的に見直す必要があることを示している。

 早期発見で最悪の事態を防ぐ一方、時間はかかるが、家庭再建を進めることが虐待をなくす唯一の道であると訴えたい。

 初めて10万件を超える

 児童虐待の相談件数は、調査を開始した平成2年度で1101件だった。27年度は前年度比1万4329件(16・1%)増の10万3260件。四半世紀前の、実に94倍だ。

 12年に児童虐待防止法が成立・施行して以来、この問題に関する国民の関心は年々高まっている。それが通報件数増加につながっているとの見方がある。しかし、それだけではこの急増ぶりは説明できない。子供を虐待する保護者が実際に増えているのである。

 児童虐待は身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待、心理的虐待の四つに分類される。このうち昨年度は、心理的虐待が全体の47・2%と約半数を占めた。子供の前で配偶者に暴力を振るう行為(DV)を心理的虐待として、警察が通報するケースが増えているからだ。

 虐待で死亡する子供は毎年50~60人に達する。こうした最悪の事態は早期発見や子育て支援・相談などの体制を構築して防ぐ必要がある。しかし、虐待の悲劇は命の問題だけではない。心に傷を負うことで、健全な人間関係を築けなくなる子供がどれほど多いことか。心理的虐待の通報が増加したのは、その深刻さが認知されたからである。

 来年4月に施行される改正児童福祉法に基づき厚生労働省は、子育てに悩む親に助言・指導する拠点づくりを全国の市町村で展開する。東京23区でも児童相談所が設置できるよう制度を見直し、虐待の早期発見を可能にするためのきめ細かな支援体制づくりを進める。

 だが、こうした対応だけでは限界があり、虐待をなくすことにはつながらないだろう。防止法が施行されても、虐待は数・質ともに深刻化している事実を見れば、対策の抜本的な見直しが必要なことは明らかである。

 激増する児童虐待を減少に転じさせる上で、まず必要なことは、若者の結婚観の歪(ゆが)みを正すことだ。つまり、戦後の個人主義的な価値観から、次世代を担う子供への責任感を伴ったものに転換する教育である。

 結婚は、自分たちの幸福だけを考えればいいというものではない。夫婦で協力して子供を幸せにするという責任意識を軽視する風潮が社会に蔓延(まんえん)していることが虐待増加の背景にあり、これが最大原因であろう。

 若者に育児の大切さを

 夫婦関係の破綻、親族・地域からの孤立、そして貧困が重なって起きるのが虐待だとよく指摘される。夫婦間の愛情と子供を立派に育てることへの覚悟があれば、これらの要因は自ずと解決され、虐待解決への第一歩が踏み出せるはず。長期的な視点に立って、若者に健全な結婚観を伝えることに社会の総力を挙げる時に来ている。