大学評価基準の変質が注目されるサンデー毎日「近大志願者数日本一」

◆志願者日本一の近大

 日本の大学の多くは、その深刻度において濃淡はあるが、いずれも少子化の影響で受験者の数が減っていて現状維持に苦心している。そんな中、近畿大学(本部・大阪府東大阪市)は、3年連続で志願者数日本一を達成の見通しだという。

 サンデー毎日3月20日号「“マグロ”だけじゃない/近大のすごい仕掛け」と題し「数年前までは中堅校の一角に過ぎなかった近大が、ここまでの注目を集めるようになった『仕掛け』に迫る」(リード文)という内容の記事。

 近大水産研究所(現・水産研究所)は2002年6月、人工ふ化させたマグロを成魚にまで育て、再び産卵させる「完全養殖」に世界で初めて成功した。近大が確立した養殖方法で卵から成魚まで育てられたクロマグロつまり「近大マグロ」は時の言葉にもなった。天然資源に頼らないマグロを近大マグロのブランドで、百貨店や自ら運営する料理店などで提供している。

 また近大は、大島(和歌山県串本町)、奄美(鹿児島県瀬戸内町)の両実験場で年間約2000匹の近大マグロを生産。提携する豊田通商の施設で育てられたクロマグロも同ブランドに認定している。

 記事では「近大の広報戦略の一番の特徴は、徹底した『外(世間一般)へのリーチ狙い』だ。近大マグロは、大学が持つ有形無形の“資産”を広く注目が集まる形に『可視化』『ブランド化』し、広くアピールしていく、近大独自の手法によるものだ」とし、「近大マグロは一過性の話題にとどまらず、一般客が実際に味わえる飲食店『水産研究所』を、大阪に続いて東京・銀座にオープンし」マスコミに取り上げられたことを強調。そして、その「広報力」こそ、3年連続で志願者数日本一達成の力になったとしている。

◆おもろい発信を評価

 かつて、大学人が企業と一緒にお金を儲(もう)けることは堕落であると見る風潮さえあった。それは、明治期に帝国大学が設立されて以来、学問自体を重視するドイツ型大学に倣ってきており、その傾向は私立系大学にも受け継がれた。日本の大学は、産業とは離れた位置に置かれ、実践的な研究とは関係の薄い部分で存在し、それをよしとしてきた。

 大学自体が、商業メディアを使って広告効果を狙うことは、すべきではないという暗黙の了解が大学関係者間にあった。近大はその不文律を破り、大学の従来のイメージを壊したわけだ。記事は「(近大の)潜在的な実力を『おもろく』発信していく広報戦略」と評価している。

 なるほど、と思う。しかし、こういった広報のあり方は、もろ手を挙げて賞賛(しょうさん)できるものか。週刊誌メディアの多くはこれまで、研究と産業界の結び付きを嫌悪してきた大学当局の姿勢を持ち上げ、その固定観念を助長してきた。にもかかわらず今度は「すごい仕掛け」と称して、「外へのリーチ狙い」を妥当とし無批判に報道している。時代の波に乗るとはこういうことかと思うと、苦々しい。

 果たして広報力が志願者数日本一に結び付いたのかどうか、この記事を見る限り、定かではない。それより世界初の完全養殖の成果こそ志願者の心を動かしたのであり、そのファクターをもっと重視すべきだ。

 クロマグロの完全養殖に成功した近畿大学名誉教授の熊井英水さんは、著書『究極のクロマグロ完全養殖物語』(日本経済新聞出版社刊)で「天然資源を損なわない養殖産業が持続可能な漁業の鍵を握っている」と論じている。今、世界中で魚食ブームが起き、美味で新鮮な魚が求められるようになった。今までの「『漁る』ことに終始した略奪型」(同書)の漁業に限界が見えている。

◆大学見極める受験生

 さらに漁場の環境が大きく変化した。太平洋の南方海域で操業する日本のカツオ・マグロ漁船に対し、周辺国が入漁料を大幅アップし、日本の漁業者から「このままでは操業が困難になる」と悲鳴が上がっている。まさに国難というべきその時期に、養殖技術分野で発展があった。その社会的貢献の事実が回り回って受験生の数にも影響しているとみるべきだ。

 これまでも、環境、宇宙技術などの分野で実績を上げた大学には、その時々に受験者数が増加した。受験生の多くは、社会貢献している大学、社会に出ても、その実績を自分のものとして誇れるような大学を一生懸命探し出し受験しているのだ。受験生を甘く見てはいけない。

(片上晴彦)