「トランプ米大統領」をスーパーチューズデーで考え始めた「新報道」

◆「暴言は信念」と警告

 米大統領選の民主・共和両党の候補者指名争いがたけなわだが、15日のミニ・スーパーチューズデー(オハイオ、フロリダなど5州)には大勢が決まるかもしれない。特に共和党は、1日のスーパーチューズデー(11州)で7勝と大勝した不動産王のドナルド・トランプ氏の勢いが収まらないのだ。

 6日のテレビ報道番組では、スーパーチューズデーを受けてヒラリー・クリントン氏優勢の民主党をそこそこに、不法移民、イスラム教徒などに排斥的な発言をするトランプ氏を取り上げ、識者らが改めて警鐘を鳴らした。

 トランプ氏は昨秋ごろから候補が乱立する中、世論調査で頭一つ抜け出して注目されたが、カリスマ実業家としてテレビ番組を持っていた知名度、タレント的な毒舌が一時的に受けたものであり、いずれ予備選でふるい落とされるという見方が多かった。

 米大統領選ではオバマ氏の時も下馬評が外れた。8年前、バラク・オバマ氏のアフリカ系の“ガラスの天井”はあっさり突き破られた。マスコミを含めて情報発信に携わるのは知識層の人々であり、既成の知識の範囲内で想定するためだろうか。米マスコミの民主党贔屓(びいき)もあろうが、トランプ評も当初は冗談扱いの「泡沫候補」だった。

 ところが1日の投票結果である。「『トランプ大統領』の可能性」(タイトル)を考え始めたのはフジテレビ「新報道2001」。スーパーチューズデーを制した候補が本選候補になる可能性は両党とも高い。番組も1988年から12年までの過去7回とも勝者が本選候補になったと指摘していた。

 また、番組が注目した「暴言」が若い頃からの「信念」との指摘は、もしやの「米トランプ政権」の性格を示唆する警告だった。一つは「米国が攻撃されても日本は米国を助ける義務はない。これは不公平だ」として、日本の対米輸出を絡めて批判する“安保ただ乗り論”、“対日強硬論”だ。28年前にトランプ氏に会った国際経営コンサルタント・植山周一郎氏が当時から聞いたとの証言だった。

◆反対派には容赦なし

 これに安保法制に反対した元外務官僚の孫崎享氏が「従来以上に自衛隊に貢献させる圧力が高まる」と談話したところ、反米反安保法制運動の弾みにもなりかねない。

 また、メキシコ大統領から非難されている「暴言」が、「壁」を築いてメキシコに代価を払わせるとの“不法移民対策”だ。これには、映画「ホールインマネー」というトランプ氏の英国スコットランドの海岸沿いのゴルフ場開発を批判したドキュメンタリーを取り上げていた。既に土手のような「壁」を反対住民の住居とゴルフ場の間に築いていた強引さは驚きだ。法外と言えないまでも反対する者に情け容赦はない。

 スタジオ出演した米国に詳しい識者らが示したトランプ氏が共和党候補になる可能性は、ジャーナリストの堀田佳男氏が「80%」、慶応大学教授の渡辺靖氏が「75%」、共和党支持者でトランプ氏には極めて厳しい見解を持つ弁護士のケント・ギルバート氏が「50%」と、予想は高くなっている。

 もはや勢いは止まらないという認識の堀田氏は、「共和党全国委員会の人もこの民意は無視できないと言っている」と述べ、容認の空気が党内にじわりと広がっていることを伝えていた(その後、8日投票の4州のうちミシガン、ミシシッピ、ハワイの3州でトランプ氏は勝利)。

 渡辺氏は、正式指名に必要な過半数に届かず「7月党大会決選」での逆転を「25%の不安定要因」に挙げていた。

 米国人だからであろう、余計にギルバート氏のトランプ氏への拒否感は強い。「トランプは日本と中国の違いが分からない」とも酷評。外交にほとんど通じていないということだろう。

◆米の「本音」に対策を

 本流政治家から毛嫌いされているのに支持が伸びるのは、「今まで既成の政治家が言わなかった心に響くこと、言ったら膝をぽんと打つようなことを言っている」(堀田氏)ためという。トランプ氏で大衆の心の底が分かるわけだ。候補者討論会では「暴言」で政治エリートらの高い鼻をへし折るさまに歓声が上がる。

 衰退、格差、テロ、不法移民、政治不信、オバマ大統領への反感など背景がさまざま指摘されるが、この際、“トランプ旋風”は世論の国・米国で好意的には取り上げられてこなかった「本音」を知る機会だ。“トランプ語録”を直視し、特に日本への出方などに賢明なる対策を今から研究しなければならないだろう。アメリカンドリームには悪夢もあり得ると考えなければならない。

(窪田伸雄)