温暖化対策で原発活用を論じた読売と脱原発の独を持ち上げた毎日

を議論

 昨年12月のCОP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定は、世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ「2度を十分に下回る」ことを目指す、とした。条約に加盟する196カ国・地域すべてが参加する地球温暖化対策の国際的な枠組みである。

 政府は8日に、パリ協定で公約した、温室効果ガスの排出を2030年度までに13年度比で26%削減の目標を達成するための地球温暖化対策推進法改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指す。先に政府がまとめた「地球温暖化対策計画」は、パリ協定での政府の国際公約に基づき、排出削減の具体的な道筋を示したものである。

 対策計画では30年までの中期目標の達成のため、部門別に削減目標を打ち出した。13年比で業務・オフィスでは40%減、家庭が39%減、運輸が28%減、産業が7%減というものだ。家庭やオフィスでは断熱性能を高め、太陽光発電などで光熱費が実質ゼロとなるビルや住宅の本格的普及を20年ごろから図る。家庭やオフィスの照明を30年までにすべて省エネの発光ダイオード(LED)などに切り替える。すでに取り組んでいるハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの普及割合を5~7割にする。

 もちろん、これぐらいのことではとても追いつくものではない。対策計画では、軽量で鉄の5倍の剛性を持つ新素材・セルロースナノファイバーの普及や次世代型の半導体の開発など革新技術の実用化も欠かせないとした。これが進めば大きな排出削減が期待でき、経済成長とも両立する一石二鳥となるが、現時点での展望は未知数である。

 結局、目標達成にはあらゆる対策すべてを実行して効果を出す必要があるのだが、そのひとつである「原子力発電の活用」とも正面から向き合わなければならない。「原案(対策計画)では国内の温暖化ガス排出量の約4割を占める発電部門の対策として、原発再稼働や再生可能エネルギーの最大限の導入を唱える」(日経3月5日記事)のである。

◆新増設に踏み込む読

 公表された温暖化対策計画、あるいは閣議決定された温暖化対策法改正案について、9日までに社論を掲載したのは読売(9日)、日経(7日)、毎日(8日)と小紙(8日)の4紙である。4紙とも対策計画案に「住宅やオフィスの照明を発光ダイオード(LED)など高効率のものに置き換える▽新車に占めるハイブリッド車や燃料電池車など次世代自動車の比率を5~7割に高める▽家庭用燃料電池(エネファーム)を530万台導入する――などの目標が盛り込まれた」(毎日)ことを解説するあたりに大きな差異はない。

 差異が出たのは、前記の原発活用についての見解である。その必要をしっかりと腰を据えて論じたのは読売と小紙である(産経は別テーマの8日主張で原発の必要を強調)。特に読売は政府の対策計画が「将来の電源構成の実現も求めている。30年の原発の比率は20~22%とされている」ことを指摘。続けて「CО2を排出しない原発は、温暖化対策上、極めて重要なエネルギーである。安全が確認された原発の再稼働だけでなく、新増設も着実に進めるべきだ」と踏み込んだ社論を展開したことを高く評価したい。

 小紙も「26%削減の達成には、原発の活用が必要だ。安全が確認できた原発の再稼働や運転延長を進めなければならない」ことに言及した。

◆踏み込まぬ日経社説

 日経は「再生可能エネルギーや原子力を現状より拡大する必要があるが」と論じながら、続けて「コストや社会的な受容性の面でともに弱点を抱える。こうした難しい課題をどう克服するのか。踏み込んだ議論と対策が要る」と、とたんに傍観者然とした現状追認の解説論調になってしまう。「原子力を現状より拡大する必要がある」と言うのなら、その根拠を丁寧に説くべきで、「踏み込んだ議論」を提起する論説となっていないことが惜しまれる。

 もはや言うまでもないことではあるが、毎日には対策計画に言及しながら、そこに「原発」の言葉自体が出てこない。代わりに出てくるのは「火力発電の高効率化や再生可能エネルギーの導入を促進する」とする文言だけ。そして、福島原発事故後に脱原発に舵(かじ)を切ったドイツを「経済成長と温室効果ガスの排出削減を同時に実現している」と持ち上げる。だが、その評価はまだ定まっていないのである。

(堀本和博)