高校教師が息子の入学式に行き自校入学式を休む是非を論じた文春
◆批判後にブログ炎上
相変わらず「STAP細胞」騒動が続いており、週刊誌もこれに紙数を割いているが、世の中には他にも次々に色々なことが起こっている。目を引いたのは、息子の入学式に出るため、自身が担任を持つ高校の入学式を欠席した女性教師のことだ。
教育評論家の尾木直樹氏がブログで「プロ意識に欠ける」と批判すると“炎上”した。寄せられたのは尾木氏への批判が圧倒的だったというから、これもまた驚きである。週刊文春(4月24日号)がこの件を取り上げ、「女性教師を支持しますか?」と問いかけた。
この教師は埼玉県の公立男子校に勤務し、新入生のクラス担任。50代で同校勤務は8年目というからベテランだ。家族は夫と高1の長男の3人である。長男の入学式に行くため、校長と相談し、さらに新入生には事情を説明して、「お許しください」と詫びる手紙を残していた。
同誌はまず尾木氏の言い分を聞いた。「教師も労働者ですが、聖職性の強い労働者です。教師の職業倫理は、他の職種よりもうんと高くなければいけない」と語る。
「例えば、大震災で警察官や消防署の職員が自分の家庭のことが心配だと言って、全員が家に帰っちゃったらどうなりますか」「教師という職業にプライドを持って仕事をやってきたんです」と述べており、当然の理屈だ。
だが、世の中、意見は多様である。尾木氏のブログに寄せられた女性教師支持の意見は、「1、わが子の方が大事なのは当然。2、有給休暇取得は労働者の権利。3、許可した学校(長)の管理責任であって担任は悪くない」と三つにまとめられると、尾木氏は伝えている。
◆夫にも追及を加えよ
同誌は次に「漫画家の倉田由美子さん」「作家の室井佑月さん」「ノンフィクション作家の吉永みち子さん」「作家の佐藤愛子さん」のコメントを載せた。
前2者は「人によって意見は分かれる」としながらも、女性教師の行動を容認しているが、吉永氏は「もう少し大人の対応が取れなかったのか」といい、佐藤氏は「こんなことに賛同する人がいるなんて、とても信じられないことです」と欠席を咎(とが)めている。
ずいぶんバランスを考慮した編集をしている。ネットの意識調査でも、「家族・家庭を優先するか」「仕事を優先するか」で意見が真っ二つに割れており、これを反映させているのだろう。
だが、この問題は「多数決」で決まることではない。「こんな常識的なことが賛否両論の議論になっていること自体がおかしい」という佐藤氏のコメントはしごくまともだ。
それに、この記事は突っ込みも足りない。何かといえば、この女性教師の「夫」は何をしていたのか、ということに言及していないのだ。
妻が行けなければ、「労働者」であろう夫が「その権利である有給休暇」を取って、息子の入学式に行けばよかったのだ。もし、夫が行けたのに、敢えて自分が行ったというのであれば、この女性教師の職業倫理は相当におかしいということになる。しかし、同誌はこの辺の事情についてはまったく触れていないのが不思議だ。
この際、夫に言及できない理由があるのであれば、やんわりとでもそれに触れておかなければ、読者の疑問は解けないまま、放置されることになる。実際に、「夫はどうしていたんだ」というのがこのケースのカギでもあるのだから。
◆問われる県側の見解
また、記事では校長のコメントは載せてあるものの、県教育委員会、教育長らの見解は入っていなかった。「埼玉県では同様のケースが県内の高校で他に三件もあった」という。県教委の見解を聞くのは当然の取材手続きだ。
昨年、退職金の減額を避けるため、卒業を目前にした3学期中にクラスをほったらかして早期退職する教師が続出して問題になったことがあった。その時、埼玉県の退職予定者約1300人のうち110人もが早期退職を希望した。
なので、子どもの入学式に行ってしまった教師が3人もいるというのは、埼玉県教委の方針や体質にも関係があるのではないか、という疑問も湧いてくる。
週刊誌はそうした読者の疑問に答えることが期待されているが、この記事では文春らしいいつものしつこさが発揮されていない。
(岩崎 哲)