子宮頸がん予防で増加要因の性交低年齢化に触れぬ「おはよう日本」
◆検診の重要性訴える
予防接種法による定期接種となりながら、重い副反応が多数報告されたことで、国による接種推奨が中止となっている子宮頸がんワクチン。接種推奨を再開するのかどうかの議論が大詰めを迎えているが、日本産婦人科医会などは再開を強く要望している。女性を子宮頸がんから守るためには、ワクチン接種と検診が「予防の2本柱」だからだという。
がんが悪化して亡くなったり、手術によって子供を産むことを諦めた数多くの女性たちに接している医療従事者が1人でも患者を減らしたいとの思いに駆られるのは当然のことだろう。
だが、ここで不思議なことがある。わが国の医学界が子宮頸がん予防を言うのなら、患者の増加要因となっている性行為の低年齢化に警鐘を鳴らすべきだが、この問題はほとんど無視されている。
そうなると、医療のプロ集団が肝心要の性行動の乱れから目を背ける一方で、ワクチン接種奨励の再開を訴えるのは、子宮頸がんを撲滅したいという動機のほかに、何か思惑があるのではないか、との疑念も浮かんでくる。
それはさておき、子宮頸がん予防を言いながら、若い患者増加の要因となっている性行為の低年齢化に触れることを避ける傾向は、メディアにも言えることだ。12日放送の「NHKニュース おはよう日本」は「子宮頸がんを防げ」を特集。「早期に発見すれば、ほとんどが治る」として、若い女性たちに受診を呼びかける女子大生グループの活動を紹介しながら、検診の重要性を訴えた。
◆感染の経路を伝えず
諸外国に比べて、受診率の低いわが国で検診の重要性はいくら強調してもし過ぎることはなく、番組の意図は評価できる。しかし、「子宮頸がんは、主にヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで発症する」と説明しながら、それがどうやって感染するかについては一言も触れなかったのは奇怪である。
HPVは主に性行為によって感染する。近年20代や30代の若い世代で子宮頸がん患者が増えているのは、性行為の低年齢化と深く関わっている。国立がんセンターの統計を見ると、20~29歳の女性10万人当たりの子宮頸がんの発症率の推移を見ると、1988年以前は4人以下だったが、それ以降増え続け、2001年には12人を突破した。
一方、日本性教育協会による調査では、女子大学生や女子高校生の性体験率は1980年代に入って急激に上昇。女子大学生の体験率は2011年で約47%、ほぼ2人に1人の割合になってしまった。HPVに感染してもほとんどは自然に排除されてしまうから、感染だけではがんにはならないが、それが長期間続くことは発がんを招く要因となっている。
また、感染から発症までは5年から10年ほどの時間がかかると言われている。したがって、若い世代の患者が増えているのは、性体験の低年齢化や不特定多数との性行為の増加と相関関係にあるとみていい。もちろん、結婚までは純潔を、結婚後は貞節を守っていても発症することがあるが、若い時から乱れた性行動を取っていれば発症リスクは当然高くなるのである。
したがって、若い世代に子宮頸がん予防を訴えるなら、検診とともに純潔を説くことが重要となるのだが、NHKの番組は性行為のリスクについてまったく触れなかった。たとえ特集のテーマが検診率アップにあったとしても、少なくとも若い世代で患者が増えている要因については説明すべきだったろう。
◆性行為感染のリスク
昨年12月、エイズウィルス(HIV)感染者が献血した血液から新たな感染者が出るという事態が発生した。この時も、NHKの「ニュース7」はかなり時間を取って報道したが、献血したのが同性の性行為を行っていた男性であることには触れなかった。また、「ニュースウォッチ9」も保健所でエイズ検査を受けることを勧めるだけで、男性同士の性行為がHIV感染のリスク行為であることを注意喚起しなかった。
子宮頸がんにしろ、エイズにしろ、その予防は性行為の問題を抜きには語れない問題だ。しかし、NHKはそこに触れるのを避けているのである。乱れた性行動のリスクについて注意喚起すれば、視聴者に嫌われると思っているのだろうか。もしそうなら、NHKは公共放送の矜恃(きょうじ)を捨て去ったも同然である。
(森田清策)